サービス開発チーム向け デザイン思考のアウトプットから具体的な開発ロードマップを作成するワークショップ手順
はじめに
サービス開発チームのリーダーとして、デザイン思考ワークショップを実施した後、「良いアイデアやインサイトはたくさん出たけれど、これをどう具体的に開発に繋げればいいのか分からない」「次の開発計画に落とし込めず、議論だけで終わってしまった」といった課題に直面した経験はないでしょうか。
アイデア発想や顧客理解のワークショップは、チームの創造性や共感を高める上で非常に有効ですが、その成果を実際のサービス開発に活かすためには、得られたアウトプットを構造化し、実現可能な開発計画(ロードマップ)に落とし込むプロセスが不可欠です。
この記事では、デザイン思考ワークショップで得られた顧客インサイトやアイデア、プロトタイプ検証結果などを基に、チームで合意形成しながら具体的な開発ロードマップを作成するためのワークショップ手順を解説します。この手順を実践することで、ワークショップの成果を「議論」から「行動」へと確実に繋げることが可能になります。
このワークショップの目的と得られるもの
このワークショップの主な目的は、デザイン思考プロセスで生まれた多様なアウトプットを整理・評価し、サービス開発の具体的なロードマップ案としてまとめることです。
ワークショップを通じて、以下の成果を得ることを目指します。
- 過去のワークショップで得たインサイトやアイデアの共通理解
- アイデアや解決策の優先順位付けの共通認識
- 優先度の高いアイデアを具体的な開発項目として定義
- 実行可能な簡易開発ロードマップ案
ワークショップの事前準備
ワークショップを円滑かつ効果的に進めるためには、事前の準備が重要です。
1. 参加者の選定
サービス開発チームメンバーに加え、プロダクトオーナー、デザイナー、マーケティング担当者など、サービスの企画・開発に関わる多様な視点を持つメンバーを含めることで、ロードマップの現実性と網羅性が高まります。5〜8名程度の参加が理想的です。
2. 必要なアウトプットの収集と整理
ロードマップ作成の基礎となる過去のデザイン思考ワークショップのアウトプット(顧客インサイト、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、アイデアリスト、プロトタイプ、検証結果、フィードバックなど)を全て集め、参加者が参照しやすい形式(デジタルデータ、印刷物など)で整理しておきます。
3. 環境とツールの準備
- 物理的な場合: 会議室、大きなホワイトボードまたは模造紙、付箋(複数色)、マーカー、タイマー。
- オンラインの場合: Miro, Mural, FigJamなどのオンラインホワイトボードツール。事前にテンプレートを作成しておくとスムーズです。共有可能なドキュメントツール(Google Docs, Notionなど)やスプレッドシートも併用すると便利です。ペルソナのツール利用経験(Miro, Figma)を考慮し、使い慣れたツールを選択しましょう。
4. タイムスケジュールとゴールの設定
ワークショップ全体の時間(通常3〜4時間程度)と、各アクティビティにかける時間を大まかに設定します。ワークショップの最後にどのような状態になっていれば成功か、具体的なゴール(例: 優先順位付けされたアイデアリストと、それを基にした3ヶ月間の簡易ロードマップ案の作成)を明確に共有します。
ワークショップ手順
ここでは、オンラインホワイトボードツール(例:Miro)を使用することを想定した手順を解説します。
ステップ1:過去のアウトプットの共有と振り返り(20分)
- 目的: 参加者全員で、過去のワークショップで何が得られたか、特に重要だと感じたインサイトやアイデアは何かを共有し、共通認識を形成します。
- 進め方:
- 事前に収集・整理したアウトプットを画面共有または参照資料として提示します。
- 各参加者に、特に印象に残った顧客の課題、インサイト、または惹かれたアイデアを付箋に書き出してもらいます(例:「顧客は○○に困っている」「○○というアイデアが魅力的だった」)。
- 書き出された付箋を共有し、簡単に説明を求めます。この段階では議論を深めすぎず、広く共有することを優先します。
ステップ2:アイデア/解決策の整理とグルーピング(30分)
- 目的: 共有されたアイデアや解決策候補を整理し、類似するものや関連性の高いものをグループ化します。
- 進め方:
- ステップ1で出た付箋や、過去のアイデアリストをホワイトボード上に集めます。
- 参加者全員で、意味合いが近いアイデアを物理的・視覚的に近くに移動させ、グループを作ります。
- 各グループに代表する見出しやテーマ名を付けます(例:「オンボーディング改善」「検索機能強化」)。これにより、多数のアイデアを構造的に捉えることができます。
ステップ3:評価基準の設定(15分)
- 目的: アイデアやグループ化された解決策を評価し、優先順位を付けるための基準を明確に合意します。
- 進め方:
- ロードマップ作成の視点から、どのような基準で評価すべきかをチームで議論します。一般的な基準としては以下が挙げられます。
- 顧客インパクト: そのアイデアが顧客の課題をどれだけ解決するか、顧客体験をどれだけ向上させるか。(ペルソナが抱える「顧客ニーズ把握不足」の課題解決に繋がるか)
- ビジネス価値: 収益貢献、コスト削減、LTV向上、新規顧客獲得など、事業に与える価値。
- 実現可能性: 技術的な難易度、必要なリソース(人員、コスト、時間)、リスク。(ペルソナが抱える「開発手戻り」を減らす視点も重要)
- チームにとって最も重要な基準を2〜3個選び、その定義を明確にします。例えば、「顧客インパクト」と「実現可能性」を軸にするなどです。
- これらの基準をホワイトボード上に明記します。
- ロードマップ作成の視点から、どのような基準で評価すべきかをチームで議論します。一般的な基準としては以下が挙げられます。
ステップ4:アイデア/解決策の評価と優先順位付け(45分)
- 目的: 設定した基準に基づき、整理・グルーピングされたアイデアや解決策候補を評価し、優先順位を付けます。
- 進め方:
- ステップ3で設定した評価基準を軸とした2次元マトリクス(例:横軸:実現可能性、縦軸:顧客インパクト)をホワイトボードに描きます。
- ステップ2でグループ化されたアイデアや、特に重要と思われる個別のアイデアについて、チームで議論しながらマトリクス上の適切な位置に配置していきます。
- 議論が難しい場合は、簡単な投票(例:各参加者が「顧客インパクトが高い」と思うアイデアに〇を3つ貼るなど)を組み合わせて、優先順位付けの議論を促進することも有効です。
- 最終的に、右上(高インパクト×高実現性)に位置するものや、チームが戦略的に重要と判断したものを「優先度が高いアイデア」として特定します。
ステップ5:ロードマップ要素への落とし込み(30分)
- 目的: 優先度の高いアイデアを、具体的な開発項目やテーマとして定義します。
- 進め方:
- ステップ4で優先度が高いと判断されたアイデア群を取り上げます。
- それぞれのアイデアについて、「これを実現するために、どのような機能が必要か?」「どのような開発タスクが発生するか?」といった具体的な要素をブレークダウンして議論します。
- 例えば、「オンボーディング改善」というテーマであれば、「新規ユーザー向けチュートリアル」「初期設定ウィザード改修」といった具体的な機能やプロジェクトに落とし込みます。
- これらの開発項目を付箋やデジタルカードでリストアップします。
ステップ6:簡易ロードマップ案の作成(45分)
- 目的: 定義された開発項目を、大まかな時間軸やフェーズに配置し、簡易ロードマップ案を作成します。
- 進め方:
- 縦軸に「開発項目(ステップ5で定義)」、横軸に「時間軸(例:今後3ヶ月、次の四半期、長期)」を設けたフレームをホワイトボードに用意します。
- ステップ5でリストアップした開発項目を、チームのキャパシティや依存関係、ビジネス的な優先度を考慮しながら、時間軸上の適切な位置に配置していきます。
- 注意点: この段階では詳細な計画ではなく、あくまで「案」として大まかな流れや優先度を視覚化することに焦点を当てます。完璧なロードマップを目指す必要はありません。後から柔軟に変更できることを前提とします。
- マイルストーン(例:〇〇機能リリース、ユーザーテスト実施)なども書き加えると、より分かりやすくなります。
- Miroなどのツールでは、ロードマップテンプレートを利用すると効率的です。
ステップ7:次のステップとアクションアイテムの確認(10分)
- 目的: ワークショップで作成したロードマップ案を、実際の開発に繋げるための次のアクションを明確にします。
- 進め方:
- 作成した簡易ロードマップ案について、チームとしてどこまで合意できているかを確認します。
- このロードマップ案を基に、誰が(担当)、何を(具体的なタスク)、いつまでに(期限)行うかを決めます。例えば、「〇〇機能の詳細設計に入る」「ロードマップ案を関係部署に共有する」といったアクションアイテムをリストアップします。
- 議事録や、作成したロードマップ案、アクションアイテムリストを参加者全員に共有する方法を確認します。
ツール活用のヒント
- Miro/Mural/FigJam: ワークショップ全体を通して、仮想ホワイトボードとして活用できます。付箋、フレームワークのテンプレート(優先順位付けマトリクス、簡易ロードマップテンプレート)、画像やドキュメントの貼り付け機能などを活用しましょう。
- スプレッドシート/Notion/Trello: ステップ5で定義した開発項目や、ステップ7のアクションアイテムをリスト化・管理するのに便利です。評価基準を数値化して入力するシートを作成することも考えられます。
- Figma: プロトタイプやUIデザインなど、具体的なアウトプットを共有する際に活用できます。ロードマップ作成の議論中に、関連するデザインを参照することで議論が深まります。
実践のヒントと注意点
- 時間管理: 各ステップに割り当てられた時間を意識し、議論が脱線しそうな場合は軌道修正を行います。タイマーを活用しましょう。
- 全参加者の意見を引き出す: 議論が特定の参加者に偏らないよう、全員が発言する機会を設けます。ブレインストーミングの段階では質より量を意識し、評価・優先順位付けの段階でじっくり議論します。
- 完璧を目指さない: このワークショップはあくまで「簡易ロードマップ案」を作成するためのものです。全ての詳細を詰め切る必要はありません。柔軟性を持たせ、定期的に見直し・更新することを前提としましょう。
- アウトプットの可視化: 常にホワイトボード上に議論の過程や中間成果物を視覚的に示すことで、参加者の理解を助け、共通認識を維持できます。
まとめ
デザイン思考ワークショップで得られた貴重なアウトプットを、絵に描いた餅にせず、具体的なサービス開発に繋げるためには、今回のワークショップのようにアウトプットを構造化し、ロードマップとして形にするプロセスが不可欠です。
ここで解説した手順はあくまで一例ですが、皆さんのチームの状況や目的に合わせてアレンジし、ぜひ実践してみてください。ワークショップを通じてチームで合意形成されたロードマップは、今後の開発における共通の羅針盤となり、手戻りを減らし、顧客価値の高いサービス開発へと繋がるはずです。継続的な実践を通じて、ワークショップの成果を最大限に引き出しましょう。