サービス開発チーム向け 効果的なデザイン思考ワークショップの設計と準備ガイド
デザイン思考ワークショップの効果を最大化する設計と準備
サービス開発チームでは、顧客ニーズの深い理解、アイデアの創出、そして効果的な課題解決策の実践が常に求められています。アイデアの枯渇、顧客ニーズとの乖離による開発手戻り、または適切な課題解決策が見出せないといった課題に直面することもあるでしょう。これらの課題に対して、デザイン思考ワークショップはチームで協働し、創造的なアプローチで解決策を生み出す強力な手法となります。
しかし、単にワークショップを実施するだけでは、期待する効果が得られない場合もあります。ワークショップを成功に導き、具体的な成果に繋げるためには、事前の「設計」と「準備」が非常に重要です。本記事では、サービス開発チームが効果的なデザイン思考ワークショップを実施するための設計プロセスと実践的な準備について解説します。
ワークショップ設計のステップ
効果的なワークショップは、明確な目的と参加者を考慮した入念な設計から始まります。
1. ワークショップの目的とゴールの明確化
まず、ワークショップを通じて「何を達成したいのか」「どのような状態になりたいのか」を具体的に定義します。
- 解決したい課題: サービス開発における具体的な課題(例: 特定ユーザー層の離脱率が高い、新機能のアイデアが出ないなど)を明確にします。
- 期待するアウトプット: ワークショップの終了時にどのような成果物(例: 顧客課題の定義、新しいアイデアリスト、プロトタイプの設計図、検証結果のサマリーなど)が得られるかを定義します。このアウトプットが、解決したい課題に対してどのように貢献するのかを明確にすることが重要です。
- 成功の基準: ワークショップが成功したと判断するための基準を設定します。これは、参加者の満足度だけでなく、得られたアウトプットの質や、その後の開発プロセスへの貢献度なども含めて検討します。
2. 参加者の選定と役割定義
ワークショップの目的を達成するために、適切な参加者を選定します。
- 多様性の確保: 異なる部門(開発、マーケティング、営業、サポートなど)や役割(エンジニア、デザイナー、プロダクトマネージャーなど)から参加者を集めることで、多様な視点とアイデアが得られます。可能であれば、実際の顧客に近い視点を持つ関係者(カスタマーサクセス担当者など)を含めることも有効です。
- 意思決定権者: ワークショップのアウトプットを次のステップに繋げるために、意思決定に関わる立場の人を含めることを検討します。
- 人数と形式: ワークショップの規模や目的に応じて、最適な人数(通常は5〜8名程度のグループを複数作るのが効果的)と形式(対面またはリモート)を決定します。人数が多い場合は、複数のグループに分けて進行計画を立てます。
3. プログラムとタイムラインの設計
ワークショップの目的と参加者を踏まえ、具体的なプログラム内容と時間配分を設計します。
- デザイン思考フェーズの特定: デザイン思考のどのフェーズ(共感、定義、アイデア創出、プロトタイプ、テスト)に焦点を当てるかを明確にします。一つのワークショップで全てのフェーズを扱うことも可能ですが、限られた時間で深い議論を行うためには、特定のフェーズやアクティビティに絞ることも有効です。
- アクティビティの選定: 各フェーズで実施する具体的なアクティビティ(例: ペルソナ作成、カスタマージャーニーマップ作成、KJ法、ブレインストーミング、プロトタイピングなど)を選定します。ペルソナやカスタマージャーニーマップなど、特定のテーマに絞ったワークショップは、既存の記事も参考にしながら計画を立てることができます。
- 時間配分: 各アクティビティに要する時間を現実的に見積もり、全体を通して無理のないタイムラインを作成します。休憩時間も適切に設けることが、参加者の集中力維持に繋がります。
- ファシリテーション計画: 各アクティビティでの具体的な進め方、参加者への指示や問いかけの例、議論が停滞した場合の対応策などを事前に検討しておきます。
実践的な準備
設計したプログラムを実行に移すための具体的な準備を行います。
1. ツールと資料の準備
ワークショップ形式に応じたツールと必要な資料を準備します。
- オンラインワークショップの場合:
- オンラインホワイトボード: MiroやMuralなどのツールに、事前にテンプレート(ワークシートのフレーム、アイデア記入エリアなど)を用意しておきます。参加者が迷わないように、基本的な使い方ガイドや操作説明の時間も設けるか、事前に共有します。グループワークを行う場合は、グループごとのフレームやプライベートエリアを設定します。
- ビデオ会議ツール: ZoomやMicrosoft Teamsなどのツールを設定し、参加者がスムーズに接続できるか確認します。画面共有、ブレイクアウトルーム機能(グループワークに便利)などの使い方を確認しておきます。
- 資料共有: Google DriveやSharePointなどのドキュメント共有ツールを使って、ワークショップの目的、アジェンダ、インプット情報などを事前に参加者に共有します。
- 対面ワークショップの場合:
- 会場: 参加人数に適した広さで、ホワイトボードや壁面に模造紙などを貼れるスペースがあるか確認します。
- 備品: 模造紙、大量の付箋(色や形を複数用意すると分類に便利)、油性ペン(太字・細字)、マスキングテープ、タイマーなどを準備します。
- ワークシート: 印刷したワークシートや資料を人数分準備します。
- 共通の準備:
- インプット情報: ユーザーインタビューの結果、アンケートデータ、市場調査レポートなど、ワークショップのテーマに関連する重要な情報を参加者が共有できるよう準備します。
2. 参加者への事前連絡
ワークショップへのスムーズな参加と効果的な進行のために、参加者に事前に必要な情報を連絡します。
- 目的とアジェンダ: ワークショップが何のために開催されるのか、どのような流れで進むのかを明確に伝えます。
- 必要な準備: 事前に確認しておいてほしい資料、考えておいてほしいこと(例: 過去の顧客からのフィードバックで印象的なもの)、使用するツールの事前準備(アカウント作成やインストールなど)があれば伝えます。
- 持ち物(対面の場合): 筆記用具やノートPCなど、必要なものを伝えます。
- 参加前の心構え: ポジティブな姿勢で参加すること、多様な意見を尊重することなどを伝えると、ワークショップ中の雰囲気が良くなります。
3. ファシリテーター自身の準備
ファシリテーターはワークショップの進行役として重要な役割を担います。
- プログラムの習熟: 設計したプログラムの目的、各アクティビティの意図、手順、所要時間を完全に理解しておきます。
- タイムキープの計画: 各セッションの時間配分を把握し、スムーズに進行するための計画を立てます。必要に応じて、早めに切り上げたり、時間を延長したりする判断基準を検討しておきます。
- 質疑応答と困難な状況への対応: 参加者からの質問への回答を準備したり、議論が脱線したり、アイデアが出なかったり、意見が対立したりした場合の対応策を想定しておきます。
- 共同ファシリテーターとの連携: 複数人でファシリテーションを行う場合は、役割分担と連携方法を事前に確認しておきます。
効果を高めるための追加の考慮事項
- 心理的安全性の確保: 参加者が自由に発言し、アイデアを共有できる雰囲気を作ることが重要です。ワークショップの冒頭で、失敗を恐れずに発言することや、お互いの意見を尊重することを呼びかけるなど、安心できる場づくりを意識します。
- 休憩と気分転換: 長時間のワークショップでは、適度な休憩を挟むことで集中力を持続させることができます。短いストレッチや雑談の時間も有効です。
- ワークショップ後のフォローアップ: ワークショップで得られたアウトプットをどのように活用し、次のステップに繋げるかを事前に計画し、参加者にも共有します。議事録や成果物の共有、決定事項の確認などを丁寧に行うことが、ワークショップの効果を持続させるために不可欠です。
まとめ
サービス開発チームが直面するアイデアの枯渇や手戻りといった課題を解決し、効果的な課題解決策を生み出すためには、デザイン思考ワークショップは非常に有効な手法です。しかし、その効果を最大限に引き出すためには、ワークショップの「目的設定」「参加者選定」「プログラム設計」といった設計フェーズと、「ツール準備」「参加者への事前連絡」「ファシリテーターの準備」といった実践的な準備が不可欠です。
入念な設計と準備を行うことで、ワークショップは単なる話し合いの場ではなく、チームで共通認識を持ち、多様なアイデアを生み出し、具体的な成果に繋げるための強力な推進力となります。ぜひ本記事で解説したステップを参考に、貴社のチームで効果的なデザイン思考ワークショップを計画・実行してください。