サービス開発チーム向け 問いの力でユーザー理解とアイデア発想を加速するワークショップ手順
はじめに
サービス開発において、ユーザーの真のニーズを捉え、革新的なアイデアを生み出すことは常に重要な課題です。しかし、「ユーザーの声を聞いたはずなのに、期待通りの反応が得られない」「アイデアが枯渇して、既存の延長線上のものしか出てこない」といった経験はないでしょうか。これは、ユーザーや課題に対して「どのような問いを立てるか」が十分検討されていないことに起因する場合が多くあります。
デザイン思考では、共感フェーズからアイデア発想、プロトタイプ検証に至るまで、適切かつ質の高い「問い」を立てることが、深い洞察(インサイト)やユニークなアイデアを引き出す鍵となります。本記事では、サービス開発チームが「問いの力」を活用し、ユーザー理解とアイデア発想を加速させるための具体的なワークショップ手順をご紹介します。このワークショップを通じて、チームでより本質的な問いを立てるスキルを習得し、開発の手戻りを減らし、顧客に真に価値あるサービスを提供するための土台を築くことができます。
ワークショップの目的と効果
このワークショップは、以下の目的を達成することを目指します。
- チーム全体で「良い問い」を立てることの重要性を理解する。
- 既存のユーザー情報や課題から、新たな視点や深掘りを促す「問いの種」を見つける。
- 発想やユーザー理解を深めるための多様な問いをチームで生み出す。
- 生まれた問いを構造化し、次に取るべきアクション(ユーザーインタビュー、アイデア発想、プロトタイプ検証など)に繋げる。
このワークショップを実践することで、以下のような効果が期待できます。
- 表面的なニーズだけでなく、ユーザーの隠れた欲求や文脈を捉えやすくなる。
- アイデア発想の幅が広がり、より独創的で多角的な解決策を生み出しやすくなる。
- ユーザーインタビューや調査の質が向上し、より有益な情報を得られるようになる。
- チームの共通認識が深まり、目指すべき方向性が明確になる。
ワークショップの準備
参加者
- サービス開発チームメンバー(プロダクトマネージャー、デザイナー、エンジニア、マーケターなど、多様な視点を持つメンバーが理想的です)
- ワークショップ進行のためのファシリテーター(1〜2名)
時間
- 1.5時間〜3時間程度(生成する問いの数や議論の深さにより調整します)
場所とツール
- 対面の場合: 会議室、ホワイトボード、模造紙、付箋、ペン
- オンラインの場合: オンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)、ビデオ会議システム(Zoom, Microsoft Teamsなど)
必要な情報源
- これまでに収集したユーザーに関する情報(ユーザーインタビュー議事録、アンケート結果、カスタマーサポートへの問い合わせ内容、行動ログなど)
- 現在取り組んでいる課題や機会領域に関する資料
- 既存のペルソナやカスタマージャーニーマップ(作成済みであれば)
ワークショップ手順
1. 導入・問いの重要性の共有(10分)
- ワークショップの目的と、なぜ「良い問い」を立てることが重要なのかを説明します。
- 良い問いが、ユーザーの真のニーズを引き出し、アイデア発想の質を高めることを具体例を交えて伝えます。
- 例:「この機能を使いますか?」という問いと、「この作業で最も困っていることは何ですか?」という問いが引き出す情報の違い。
- 例:「どうすれば売上を増やせるか?」という問いと、「顧客はどのような瞬間に最も喜びを感じるか?その喜びをどのように高められるか?」という問いが導くアイデアの違い。
2. 問いの種を見つける(30分)
- 事前に収集したユーザー情報や課題に関する資料を参加者に共有します。
- 個人またはペアで、これらの資料の中から気になる点、疑問に思った点、矛盾する点、ユーザーの感情(喜び、不満、困惑など)、具体的な行動や発言などを探し、「問いの種」となるキーワードやフレーズ、短い文章を付箋に書き出します。
- 例:「ユーザーが〇〇と言っていたが、実際には△△という行動をとっていた」「ユーザーは〇〇という点で非常に困っているようだ」「なぜユーザーは□□という使い方をするのだろうか」
- 書き出した付箋をオンラインホワイトボードや模造紙に貼り出します。
3. 問いを生成する(40分)
- 前のステップで見つけた「問いの種」や、共有されたユーザー情報、課題領域を起点に、「良い問い」を実際に生成する時間を設けます。
- 良い問いの要素や、問いの立て方に関するヒントを提示します。
- 開かれた問い: Yes/Noで答えられない、深掘りを促す問い(例:「〜についてどう思いますか?」「具体的にどのような状況ですか?」)
- Why(なぜ)を問う: 行動や感情の背景にある理由を深掘りする問い。
- How Might We (HMW - どうすれば〜できるか?): 課題を解決の機会に変える問い。
- 特定の状況や感情に焦点を当てる問い: 抽象的ではなく、具体的な場面やユーザーの心情に迫る問い。
- 前提を疑う問い: 「これは本当に正しいのか?」「別の方法はないか?」
- 個人で制限時間内にできるだけ多くの問いを付箋に書き出します(量より質、ではなく、この段階では量を意識します)。
- 書き出した問いを全員で共有し、オンラインホワイトボードに貼り出します。類似する問いは近くに配置します。
- ここで、問いの質を高めるための簡単なルールやガイドライン(例:批判しない、突飛な問いも歓迎する)を改めて確認します。
4. 問いを分類・構造化する(30分)
- 貼り出された大量の問いを、チームで協力して分類・整理します。
- 分類の視点例:
- 対象: ユーザーの行動、感情、課題、ニーズ、期待など
- フェーズ: ユーザー理解、アイデア発想、ソリューション探索、検証など
- 問いのタイプ: Whyを問う問い、How Might We、状況を尋ねる問いなど
- 関連性: 似たような問い、補完関係にある問いをまとめる
- 分類後、それぞれのカテゴリにタイトルをつけたり、問いと問いの間に矢印を引いて関係性を示したりすることで、構造化します。オンラインホワイトボードツールのアフィニティダイアグラム機能などが役立ちます。
5. 深掘り・活用する問いを選ぶ(20分)
- 分類・構造化された問いの中から、最も探求すべき価値がある、あるいは次のステップ(ユーザーインタビュー、アイデア発想セッションなど)に繋げたい「重要な問い」「刺激的な問い」をチームで選びます。
- 選定の基準を設けると議論がスムーズに進みます。基準例:
- ユーザー理解を深める上で不可欠か?
- これまでにない新しい視点をもたらすか?
- 潜在的な大きな機会を示唆しているか?
- 次のアクションに具体的に繋げやすいか?
- 各自で投票したり、議論を通じて合意形成を図ったりして、数個〜十数個の主要な問いを特定します。
6. まとめと次のアクション(10分)
- ワークショップ全体を振り返り、生まれた主要な問いを共有します。
- これらの問いを今後どのように活用していくかを明確にします。
- 例:来週実施するユーザーインタビューの質問リストに加える
- 例:次のアイデア発想ワークショップのテーマとして設定する
- 例:特定の問いに対する仮説を立て、検証方法を検討する
- ワークショップのアウトプット(分類・構造化された問いリスト、選ばれた主要な問い)を参加者全員がアクセスできる場所に保存し、今後の活動に活かせるようにします。
ツール活用例
- Miro / Mural:
- 付箋機能で「問いの種」や生成した問いを自由に書き出し、リアルタイムに共有できます。
- 付箋をドラッグ&ドロップして分類・構造化できます。アフィニティダイアグラムテンプレートを活用すると便利です。
- 投票機能で、重要な問いの選定を効率的に行えます。
- 写真やドキュメントをボード上に貼り付け、参照しながら作業できます。
- Google Docs / Shared Whiteboard:
- 問いのリスト化や、分類結果のまとめに活用できます。
- その他:
- 既存のユーザー情報や資料は、Google DriveやDropboxなどのクラウドストレージで事前に共有しておくとスムーズです。
ワークショップを成功させるヒント
- アイスブレイク: 最初に参加者に「最近あなたが立てた、一番面白かった問いは何ですか?」など、問いに関する簡単な問いかけをすることで、場の雰囲気を和らげ、問いを立てるモードに入りやすくします。
- 問いの質のフィードバック: 生成された問いに対し、ファシリテーターが「もう少し具体的にできますか?」「なぜそう思ったのですか?」「この問いを立てることで何を知りたいですか?」といったフィードバックを与えることで、問いの質を高めるサポートをします。
- 多様な視点の活用: 参加者それぞれが異なる経験や専門知識を持っています。多様な視点から問いが生まれるように、全員が発言しやすい雰囲気を作ることが重要です。
- 時間管理: 各ステップに適切な時間を設定し、時間内に収まるようにファシリテーションを行います。時間が足りない場合は、問いの生成量を減らす、分類を簡易化するなど調整します。
- 「良い問い」の定義の共有: 事前に、チームにとって「良い問い」とはどのような問いか(例:行動を深掘りできる問い、感情に迫る問いなど)を簡単に話し合っておくと、問い生成の方向性が定まります。
まとめ
「良い問い」を立てるスキルは、デザイン思考を実践し、ユーザー中心のアプローチを成功させる上で不可欠です。本記事でご紹介したワークショップ手順は、サービス開発チームが協力してこのスキルを磨き、ユーザーの隠れたニーズや新しいアイデアの可能性を引き出すための具体的な実践方法を提供します。
ぜひチームでこのワークショップを実践し、問いの力を活用して、より深いユーザー理解と加速されたアイデア発想を実現してください。生まれた問いを次のステップに繋げることで、開発プロセス全体が活性化され、顧客に真に価値を届けるサービス創出に繋がるはずです。