サービス開発チーム向け オンラインツールで進めるリモートデザイン思考ワークショップ手順
はじめに
サービス開発チームにおいて、新しいアイデアの発想や顧客ニーズの深い理解は不可欠です。しかし、リモートワークが常態化する中で、対面でのワークショップのような一体感や活発な議論をどのように実現するかは多くのチームリーダーが直面する課題でしょう。
デザイン思考ワークショップは、これらの課題に対し、チームで協働しながら具体的な成果を生み出す強力なフレームワークを提供します。そして、適切なオンラインツールを活用することで、リモート環境でも対面と遜色なく、あるいはそれ以上の効果を発揮するワークショップ実施が可能です。
この記事では、サービス開発チームがリモート環境でデザイン思考ワークショップを効果的に進めるための具体的な手順と、オンラインツールの活用方法をステップごとに解説します。チームでのアイデア枯渇や顧客ニーズ把握不足といった課題解決の一助となれば幸いです。
リモートデザイン思考ワークショップの準備
リモートワークショップの成功は、事前の周到な準備にかかっています。特にオンライン環境ならではの配慮が必要です。
1. 目的とゴールの明確化
ワークショップを通じて何を達成したいのか、具体的なアウトプットは何にするのかを明確にします。これにより、参加者全員が同じ方向を向き、議論が脱線することを防ぎます。
2. 使用ツールの選定と準備
リモートワークショップでは、オンラインホワイトボードツール、ビデオ会議システム、ドキュメント共有ツールなどを組み合わせることが一般的です。チームの既存ツール利用状況や、ワークショップの内容に適したツールを選定します。
- オンラインホワイトボードツール: Miro, Muralなど。付箋機能、テンプレート、図形描画など、デザイン思考の様々なワークで使用します。ペルソナのMiro利用経験を活かせます。
- ビデオ会議システム: Zoom, Google Meet, Microsoft Teamsなど。参加者間のコミュニケーション、画面共有に使用します。
- ドキュメント共有ツール: Google Drive, Dropbox, Confluenceなど。事前資料の共有、ワークショップ後のアウトプット保管に使用します。
- 簡易プロトタイピングツール: Figma, Sketch, Adobe XDなど。アイデアを素早く形にする際に役立ちます。ペルソナのFigma利用経験を活かせます。
参加者がスムーズにツールを使えるよう、必要であれば事前にツールの基本的な操作方法を共有したり、短いチュートリアルセッションを実施したりすることを検討します。
3. アジェンダとタイムラインの設計
リモートでの集中力を考慮し、対面よりもセッション時間を短く区切り、適切な休憩時間を設けます。各アクティビティに厳密なタイムボックスを設定し、時間管理を意識します。
4. 参加者への事前共有
ワークショップの目的、アジェンダ、使用ツール、参加者が事前に準備すべきこと(資料の確認、ツールのインストールなど)を明確に伝えます。
5. 資料・テンプレートの準備
オンラインホワイトボード上に、ワークショップで使用するテンプレート(ペルソナシート、カスタマージャーニーマップ、アイデア発想フレームなど)を事前に準備しておきます。これにより、ワークショップ当日の進行がスムーズになります。
デザイン思考ワークショップのステップとリモートでの進め方
デザイン思考の一般的な5つのステップ(共感、定義、アイデア発想、プロトタイプ、テスト)をリモートでどのように実施するか、具体的な手順を解説します。
ステップ1: 共感(Empathize)
ユーザーのニーズや課題を深く理解するステップです。
- リモートインタビュー: ビデオ会議システムを使用してユーザーにインタビューを実施します。表情や声のトーンからも情報を得るために、可能な限りビデオオンでの参加を促します。複数人で参加する場合は、役割分担(質問者、記録者)を決めます。
- オンラインアンケート/ユーザー調査: Google FormsやSurveyMonkeyなどを活用して、広範なユーザーから情報を収集します。
- 情報の共有と整理: インタビューや調査で得られた定性・定量情報を、オンラインホワイトボード上に付箋として貼り出し、共通理解を深めます。Miroなどのツールでは、写真や動画、ドキュメントなども貼り付けることができます。
ステップ2: 定義(Define)
共感ステップで収集した情報から、解決すべき真の課題を明確に定義します。
- ペルソナ作成: オンラインホワイトボード上のテンプレートを用いて、ユーザー像(ペルソナ)を作成します。収集したユーザーの声をペルソナに紐付けながら議論します。
- 課題の明確化(Problem Statement/HMW): 定義したペルソナや共感ステップで発見したインサイトに基づき、「どのようにすれば(How Might We)〜できるか?」といった問いの形で課題を定義します。オンラインホワイトボード上で複数の「How Might We」ステートメントを出し合い、優先順位をつけます。
- インサイトマップ/アフィニティマッピング: 収集した情報をオンラインホワイトボード上でグルーピングし、共通するインサイトやパターンを見つけ出します。Miroなどのツールのアフィニティダイアグラム機能が有効です。
ステップ3: アイデア発想(Ideate)
定義された課題に対して、多様な解決策となるアイデアをできるだけ多く生み出すステップです。
- リモートブレインストーミング: オンラインホワイトボードの付箋機能を使って、各自がアイデアを書き出し、共有します。リモートの場合、同時に多くの人が発言しにくいことがあるため、各自が静かに書き出す時間を設けてから共有・議論する形式(ブレインライティングの要素を取り入れる)が効果的です。
- オンラインでのアイデア共有と投票: 出されたアイデアをオンラインホワイトボード上で一覧化し、絵や簡単な図を加えて視覚的に表現します。参加者による投票機能(Miroなど)を使って、有望なアイデアを絞り込みます。
- アイデアの具体化: 絞り込んだアイデアについて、オンラインでグループに分かれて(ビデオ会議システムのブレイクアウトルーム機能などを使用)、具体的な内容を詰めます。オンラインドキュメントやホワイトボード上に詳細を書き込みます。
ステップ4: プロトタイプ(Prototype)
アイデアを素早く形にし、検証可能なプロトタイプを作成するステップです。
- デジタルプロトタイプ作成: Figmaなどのデザインツールや、PowerPoint、Google Slidesなどを用いて、サービスの画面遷移やユーザーインタラクションを示すプロトタイプを作成します。チーム内でファイルを共有し、共同編集機能を活用します。
- ストーリーボード作成: オンラインホワイトボード上に、ユーザーがプロトタイプを使うシナリオをストーリーボードとして作成します。簡易的な図やテキストで表現します。
- プロトタイプの共有とフィードバック: 作成したプロトタイプを画面共有したり、共有リンクを送ったりしてチーム内で確認します。オンラインホワイトボード上にフィードバックを書き込んでもらったり、ビデオ会議で議論したりします。
ステップ5: テスト(Test)
作成したプロトタイプをユーザーに使ってもらい、フィードバックを得ることで、アイデアや課題定義の妥当性を検証するステップです。
- リモートユーザーテスト: プロトタイプをユーザーにリモートで操作してもらい、その様子をビデオ会議システムで共有・録画します。ユーザーの思考プロセスや課題を把握するために、「コンカレント・シンキング・ア・ラウド(考えながら話してもらう)」を促します。
- オンラインフィードバック収集: テスト後にオンラインアンケートを実施したり、オンラインホワイトボード上にフィードバック用のスペースを設けたりして、体系的に情報を収集します。
- 結果の分析とインサイト抽出: 収集したフィードバックをオンラインホワイトボード上に整理し、グルーピングやアフィニティマッピングを通じて、新たなインサイトや改善点を見つけ出します。この結果を基に、課題定義やアイデア、プロトタイプを iteratively に改善していきます。
リモートワークショップを成功させるポイント
リモート環境ならではの特性を理解し、ファシリテーションや環境準備に工夫を凝らすことが成功の鍵です。
- ツールの事前説明と習熟度確認: ワークショップ中にツール操作で戸惑わないよう、事前に簡単なチュートリアルや操作練習時間を設けます。
- 短いセッションとこまめな休憩: オンラインでの集中力は対面より持続しにくい傾向があります。1セッションは最大90分程度にし、間に必ず休憩を入れます。
- ファシリテーションの工夫:
- 参加者が発言しやすいように、特定の個人に話を振る、チャットでの意見も拾うなどの配慮をします。
- 全員がカメラオンで参加できると、非言語コミュニケーションが伝わりやすくなります。
- アイスブレイクを導入し、場の雰囲気を和らげ、心理的安全性を高めます。
- 明確な指示とタイムボックス厳守を促し、時間内に目的を達成できるようにします。
- アウトプットの共有と記録: オンラインホワイトボードの内容は常に全員が見られる状態にし、ワークショップ後もアクセス可能な状態で保管します。議事録はリアルタイムで共有ドキュメントに記録すると、認識のずれを防げます。
- 技術トラブルへの備え: 参加者の通信環境やツールの不具合に備え、可能な範囲で代替手段(電話、別のツール)を準備しておきます。
まとめ
リモート環境でのデザイン思考ワークショップは、地理的な制約を超えて多様なメンバーが参加できる、アウトプットをデジタルで共有・蓄積しやすいといったメリットがあります。しかし、その成功には、適切なツールの選定と準備、リモート向けに最適化されたアジェンダ設計、そして参加者全員が主体的に関われるようなファシリテーションが不可欠です。
この記事で解説した具体的な手順やオンラインツールの活用方法を参考に、ぜひあなたのチームでもリモートデザイン思考ワークショップを実践してみてください。事前の準備を丁寧に行い、参加者が安心してアイデアを出し合える場を作ることで、チームの創造性や課題解決能力を最大限に引き出すことができるでしょう。