サービス開発チーム向け リモートワークショップでチームの多様なアイデアを引き出すファシリテーション実践ガイド
リモートワークショップで多様なアイデアを引き出す重要性
サービス開発において、チーム内の多様な視点やアイデアは、革新的な解決策を見出すための重要な源泉です。特にリモート環境でのワークショップでは、物理的な距離やツールの制約から、参加者全員から活発かつ多様な意見を引き出すことが難しくなる場合があります。一部の参加者だけが発言しがちになったり、非言語的な情報が伝わりにくかったりといった課題が生じやすい傾向があります。
しかし、適切なファシリテーションを行うことで、リモート環境であっても、むしろ対面形式では難しかったような参加者全員の意見を均等に引き出し、質の高い多様なアイデアを生み出すことが可能です。この記事では、サービス開発チームがリモートでデザイン思考ワークショップを実施する際に、チームメンバー一人ひとりの声に耳を傾け、多様なアイデアを効果的に引き出すための実践的なファシリテーション技術と具体的な進め方をご紹介します。
リモート環境におけるファシリテーションの基本原則
リモートでのワークショップを成功させるためには、対面とは異なる特性を理解し、以下の基本原則を意識することが重要です。
- 心理的安全性の確保: 参加者が安心して発言できる場を作る。否定的な意見をせず、どんなアイデアも歓迎する雰囲気作りが不可欠です。
- 全員参加の促進: 一部の参加者だけが主導せず、全員が貢献できるように機会を均等に提供します。
- 明確なルールとプロセスの共有: ワークショップの目的、アジェンダ、使用ツール、各アクティビティの進め方や時間配分を事前に明確に伝え、全員が理解している状態にします。
- 非同期コミュニケーションの活用: ワークショップ時間外でも意見交換や情報共有ができる仕組み(チャットツールなど)を組み合わせることで、より多くの情報収集やアイデアの熟成を促します。
- ツールの効果的な活用: オンラインホワイトボードなどのツール機能を最大限に活用し、視覚的な情報共有と共同作業をスムーズに行います。
多様なアイデアを引き出す具体的なファシリテーションテクニック
リモートワークショップで多様なアイデアを引き出すためには、ワークショップの準備段階から終了後まで、各フェーズで計画的なファシリテーションが求められます。
1. 事前準備段階
- 参加者の特性把握と役割分担: 参加者のバックグラウンドや専門性を事前に把握し、ワークショップ内でそれぞれの視点が活かされるような役割分担やグループ分けを検討します。
- アジェンダとゴールの明確化: ワークショップの目的、達成目標、具体的なタイムテーブルを参加者全員に事前に共有します。何のためにこのワークショップを行うのか、参加することで何が得られるのかを明確にすることで、参加者の主体性を引き出します。
- ツールと環境の準備・確認: 使用するオンライン会議ツール、オンラインホワイトボード(Miro, Figmaなど)の基本的な操作方法を参加者が理解しているか確認します。必要であれば、簡単なチュートリアルの時間を設けます。音声、ビデオ、ネットワーク環境の事前確認も重要です。
- グランドルールの設定: リモート環境でのワークショップに特化したグランドルールを事前に提案し、参加者と合意形成します。
- 例:「発言したいときは挙手機能を使う」「ミュートを適切に活用する」「チャットは補足情報や簡単な質問に使う」「他の人の発言を最後まで聞く」「ツール上での共同作業方法(同時に書き込みOKかなど)」
2. ワークショップ実施中
- チェックイン/チェックアウト: ワークショップ開始時と終了時に簡単なチェックイン/チェックアウトを行います。オンラインホワイトボードに今の気持ちを付箋で貼ったり、簡単な質問に順番に答えたりすることで、参加者の緊張を和らげ、心理的安全性の確保につながります。
- 例:「今日のワークショップに期待することを一言で」「今朝あった良かったこと」など。
- 発言機会の均等化:
- 指名: 一部の参加者だけでなく、普段あまり発言しない参加者にも意識的に問いかけ、意見を求めます。
- 順番制: 「右回りで一人ずつ発表」のように、意図的に発言の順番を決めることで、全員に話す機会を提供します。
- オンラインホワイトボードでの同時書き込み: アイデア出しや意見集約のフェーズでは、Miroなどのオンラインホワイトボードに全員が同時に付箋を貼る形式が非常に有効です。これにより、声に出すのが苦手な人でもアイデアを表現でき、他の意見に影響されずに個々の発想を引き出せます。
- ブレイクアウトルームの活用: 少人数のブレイクアウトルームに分かれることで、より気軽に発言しやすい環境を作ります。その後、全体に戻ってグループでの議論内容を共有します。
- アイデア出しの工夫:
- 個人ワーク時間の確保: まずは個人でじっくり考える時間を設けます。オンラインホワイトボードの個人用の領域を使ったり、オフラインで考えたものを後で貼り付けてもらう形式も可能です。
- 発想法の活用: 強制連結法、SCAMPER、マインドマップなど、普段と異なる視点からアイデアを出すための発想法をワークショップに取り入れ、ファシリテーターが具体的な進め方をガイドします。
- 多様なインプットの提示: 顧客インタビューの動画、定性・定量のデータ、ペルソナ、カスタマージャーニーマップなどを視覚的に共有し、参加者の発想を刺激します。
- 傾聴と承認: 参加者の発言に対し、相槌を打つ、うなずく(ビデオ越しでも見えるように)、チャットで肯定的なコメントをするなど、積極的に傾聴している姿勢を示します。アイデアの内容に関わらず、「〇〇さん、ありがとうございます」「面白い視点ですね」といった肯定的なフィードバックをすることで、次の発言を促します。オンラインツールのリアクション機能(拍手、いいねなど)も有効です。
- 問いかけの質: 「〜についてどう思いますか?」だけでなく、「もし〇〇だったら、どう解決しますか?」「このアイデアの対象となる人は、どんな時に一番助かりますか?」など、具体的な状況や異なる視点からの問いかけを行うことで、深い考察や多様な角度からのアイデアを引き出します。
- 休憩と雑談の時間の確保: リモート環境では集中力を持続するのが難しいため、こまめな休憩を挟みます。休憩中に短い雑談の時間(ブレイクアウトルームでコーヒーチャットなど)を設けることで、非公式なコミュニケーションが生まれ、心理的な距離が縮まることもあります。
3. ワークショップ終了後
- アウトプットの整理と共有: オンラインホワイトボードに残されたアイデアや議論の内容を整理し、参加者全員に速やかに共有します。これにより、ワークショップでの貢献が可視化され、参加者のモチベーション維持に繋がります。
- 振り返りと改善: ワークショップ後に簡単なアンケートを実施し、「発言しやすかったか」「ツールは使いやすかったか」「多様な意見が出たか」などを参加者にフィードバックしてもらいます。次回のワークショップに向けた改善点を見つけます。
オンラインツールの具体的な活用例 (Miro, Figmaなど)
- Miro:
- アイデア出し: 付箋ツールで各自がアイデアを書き出し、ボード上に並べる。他の人の付箋にコメント機能で質問やフィードバックを行う。
- グルーピング・投票: 似たアイデアをまとめてグループ化する。投票機能を使って、重要度や実現可能性でアイデアを絞り込む。
- テンプレート活用: Miro Universeには多様なワークショップテンプレート(ブレインストーミング、ジャーニーマップ、KPTなど)が豊富にあるため、目的に合わせて活用できます。
- タイマー機能: 各ワークの時間管理を視覚的に示し、集中力を維持します。
- Figma:
- プロトタイピング: アイデアを簡単な画面構成やUIとして迅速に形にする。共同編集機能でリアルタイムにフィードバックや修正を行う。
- 構造化されたアイデア整理: ボード上にフレームを作成し、アイデアや情報を整理する。コネクターツールでアイデア間の関係性を示す。
- その他のツール:
- Slack/Teams: ワークショップ前の情報共有、ワークショップ中の簡単な質問対応、終了後の非同期での議論継続などに活用します。
- Google Docs/Shared Drive: 事前資料の共有、議事録の作成と共有、ワークショップのアウトプット資料の保管場所として利用します。
成功事例から学ぶこと
あるサービス開発チームでは、従来対面で行っていたアイデア出しワークショップをリモートに移行した際に、一部メンバーからの発言が減るという課題に直面しました。そこで、以下の改善策を実施しました。
- 事前準備の徹底: 使用ツールの簡単な操作説明会を実施し、不安を解消。
- チェックインの導入: ワークショップ開始時に短い雑談時間を設けて、参加者の心理的なハードルを下げる。
- Miroでの同時書き込みの推奨: アイデア出しは必ずMiro上で行い、全員が同時に付箋を貼るルールを徹底。声に出すのが苦手な人もアイデアを出しやすくなった。
- ブレイクアウトルームでの少人数議論: アイデア共有後の深掘り議論は、4〜5人のブレイクアウトルームで行い、全員が発言する機会を確保。
これらの工夫により、以前よりも多くのメンバーから多様なアイデアが出るようになり、ワークショップの質が向上しました。
まとめ
リモート環境でのデザイン思考ワークショップでチームの多様なアイデアを引き出すためには、単にツールを使うだけでなく、参加者の心理的な側面やリモート環境特有の課題を理解した上で、計画的かつ柔軟なファシリテーションを行うことが不可欠です。
この記事でご紹介した事前準備、実施中の具体的なテクニック、ツールの活用法などを参考に、ぜひチームで実践してみてください。多様なアイデアは、サービス開発における新しい発見や課題解決の糸口となり、チームの成長にも繋がるはずです。継続的にワークショップを振り返り、チームに最適なファシリテーションスタイルを見つけていくことが、より効果的なワークショップ実施への道となります。