サービス開発チーム向け 定義した顧客課題から効果的なアイデアを生み出すワークショップ手順
デザイン思考において、顧客への共感や課題定義のフェーズを経て「私たちはどのようにすれば〇〇(顧客課題)を解決できるか?」という問い(HMW: How Might We)を設定した後、いよいよアイデア創出のフェーズに進みます。この段階で、定義した顧客課題に根差した、実行可能かつ顧客に価値をもたらすアイデアをチームで効率的に生み出すためのワークショップは非常に重要です。
本記事では、サービス開発チームがすでに定義済みの顧客課題やインサイトを基に、発想を広げ、質の高いアイデアをチームで生み出すための具体的なワークショップ手順をご紹介します。アイデアの枯渇や、顧客ニーズからズレたアイデアに悩むチームリーダーにとって、実践的なヒントとなる内容を目指します。
ワークショップの目的と概要
このワークショップの主な目的は、共通認識として定義された顧客課題やインサイトに対し、チームメンバーそれぞれの視点から多様で新しい解決策のアイデアを可能な限り多く生み出すことです。単なる自由な発想ではなく、明確な課題を起点とすることで、アイデアの方向性を定めることができます。
- 目的: 定義された顧客課題・インサイトに基づき、多様で具体的な解決策のアイデアをチームで効率的に生み出す。
- 所要時間: 2時間~3時間程度(参加人数やアイデア発想手法の数による)
- 参加者: サービス開発チームメンバーを中心に、プロダクトオーナー/マネージャー、デザイナー、エンジニア、マーケターなど、多様な視点を持つメンバーが参加すると効果的です。4〜8名程度が推奨されます。
- 必要な準備:
- 定義済みの顧客課題やインサイトをまとめた資料(ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、課題定義文、インサイトボードなど)
- ホワイトボードやオンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)
- ポストイット(付箋)やデジタル付箋
- マーカーペンまたはPC/タブレット
ワークショップの手順
ステップ1:定義済み課題・インサイトの共有と共感の再確認(15-30分)
ワークショップの冒頭で、今回のアイデア創出の基盤となる顧客課題やインサイトをチーム全員で共有し、理解を深めます。ここで重要なのは、単に情報を提示するだけでなく、参加者が改めて顧客の状況や感情に「共感」する時間を設けることです。
- 進行方法:
- ファシリテーターが、定義済みのペルソナ、カスタマージャーニーマップのハイライト、特に重要な顧客課題やインサイトについて説明します。
- 参加者からの質問を受け付け、理解を深めます。
- オンラインツールを利用している場合は、事前にこれらの資料を共有スペースに貼り付けておき、参加者が自由に閲覧・コメントできる状態にしておくと良いでしょう。Miroの場合、各資料をフレームで区切り、個別の説明を加えることが可能です。
- ポイント: なぜこの課題が重要なのか、顧客はどのような状況で、何を考え、どのように感じているのかを具体的にイメージできるよう促します。参加者が「自分だったらどう感じるか」を考える時間を作ることも有効です。
ステップ2:アイデア発想を促す「HMW(How Might We)」問いの設定(15-20分)
定義された顧客課題やインサイトから、具体的なアイデア発想につながるような問い「私たちはどのようにすれば〇〇できるか?」(HMW)を設定します。この問いが曖昧だと、アイデアも抽象的になりがちです。
- 進行方法:
- 共有された課題やインサイトの中から、特に焦点を当てたいポイントを選びます。
- そのポイントに対して、「私たちはどのようにすれば〜できるか?」という形式で問いを複数作成します。
- 例:「〇〇(課題)を抱える顧客が、△△(望む状態)になるためには、私たちはどのようにすれば力になれるか?」
- 最初は個人で HMW 案を出し、その後チームで共有・ refine します。いくつかの異なる切り口からの HMW を設定すると、多様なアイデアが出やすくなります。
- オンラインツールでは、共有ボードにアイデアとして HMW 案をポストイットで貼り付け、グループ化したり、投票機能で優先順位をつけたりできます。
- ポイント: HMW は具体的すぎず、抽象的すぎないレベルに設定することが重要です。「〜という機能を実装するか?」のようにソリューションに寄りすぎず、「〜という顧客の不満を解消するには?」のように課題に寄りすぎないバランスを見つけます。
ステップ3:アイデア発想(集中発想と共有)(45-60分)
設定したHMW問いに対し、個々人または小グループで集中してアイデアを発想し、可視化します。このフェーズでは、アイデアの質より量を重視し、自由な発想を促します。
- 進行方法:
- 設定したHMW問いをボードの中央に掲示します。
- 参加者は、それぞれの問いに対し、思いついたアイデアをポストイットやデジタル付箋に1つずつ書き出します。書き出す際は、「具体的な行動や機能」として記述することを意識します。(例: 「アプリでチャットサポートを提供する」「近隣の専門家を検索できるようにする」など)
- アイデア発想の手法をいくつか組み合わせると効果的です。
- ブレインストーミング: 基本的な発散手法。批判禁止、自由奔放、量重視、結合改善の原則を徹底します。
- ブレインライティング: 各自がアイデアを書き出し、隣の人と交換して、そのアイデアからさらに発想を広げる手法。オンラインツールでは、各自が特定のエリアに書き出し、他の人のアイデアを閲覧・コピーして発展させることが可能です。非同期での発想にも適しています。
- SCAMPER: Substitute (置き換える), Combine (組み合わせる), Adapt (応用する), Modify/Magnify (修正/拡大), Put to another use (他の用途に使う), Eliminate (削除する), Reverse/Rearrange (逆転/再配置)の頭文字を取ったフレームワーク。既存のアイデアや要素に対してこれらの視点で問いを投げかけ、新しいアイデアを生み出します。
- オンラインツールでは、それぞれのHMWごとにフレームを設け、その中でアイデアをポストイットとして蓄積します。タイマー機能を使って時間制限を設けると集中力が高まります。
- ポイント: 他の参加者のアイデアに触発されることを奨励します。奇抜に思えるアイデアも否定せず、すべて受け入れる雰囲気を醸成します。ファシリテーターは、アイデアが出にくい参加者に HMW の解釈について具体的に質問したり、別の視点を提示したりして発想を促します。
ステップ4:アイデアの整理と分類(20-30分)
大量に生み出されたアイデアを、チームで共有し、類似性や関連性に基づいてグループ化します。これにより、アイデアの全体像を把握し、次のステップ(絞り込み)に進みやすくします。
- 進行方法:
- ファシリテーターがアイデアを読み上げながら、参加者全員で内容を確認します。(ブレインライティングで可視化されている場合は省略可)
- 類似するアイデアや、同じテーマに属するアイデアを物理的またはオンライン上で近くに移動させ、グループ化します(アフィニティマッピング)。オンラインツールでは、ドラッグ&ドロップで簡単に移動・グループ化できます。
- グループごとに代表するテーマ名やカテゴリー名をつけます。
- 必要に応じて、アイデアを2軸のマトリクス(例: 顧客価値 vs 実現可能性、革新性 vs コストなど)上に配置し、視覚的に整理することも有効です。
- ポイント: グループ化のプロセスを通じて、自分以外のメンバーがどのようなアイデアを考えていたのかを理解し、新たな気づきを得る機会とします。完璧な分類を目指すより、チーム全体で納得感のある大まかな分類を目指します。
ステップ5:次のステップへの接続(アイデアの選定ディスカッション/投票)(15-20分)
整理・分類されたアイデア群の中から、特に有望と思われるものや、さらに検討する価値のあるアイデアを絞り込みます。
- 進行方法:
- 各アイデアグループや、特に目を引くアイデアについて、簡単に内容を説明し合います。
- 次のステップ(より詳細な検討、プロトタイピングなど)に進むアイデアを、簡単なディスカッションや投票によって選定します。
- 投票を行う場合は、参加者それぞれに数票を与え、良いと思うアイデアに投票してもらいます(ドット投票)。オンラインツールには投票機能が搭載されていることが多いため、これを活用すると効率的です。
- 選ばれたアイデアは、今後の検討対象として記録します。
- ポイント: この段階での選定は最終決定ではなく、あくまで「次のステップに進める価値があるか」という視点で行います。なぜそのアイデアが良いと思うのか、簡単に理由を共有することで、チームの考え方を揃えることができます。
ワークショップを成功させるためのヒント
- 明確なゴールの共有: ワークショップ開始時に、なぜアイデア発想を行うのか、定義済み課題が何かを改めて明確に共有します。
- 心理的安全性の確保: どんなアイデアも歓迎される雰囲気を作り、参加者が自由に発言できるように促します。批判的な発言は厳禁とします。
- ファシリテーターの役割: 時間管理、プロセスの案内、参加者への問いかけ、アイデアが出にくい参加者へのサポートなど、ファシリテーターが積極的に場を動かします。オンラインの場合は、ツールの操作サポートも重要です。
- ツールの効果的な活用: Miroなどのオンラインホワイトボードは、リアルタイム共同編集、付箋機能、描画、フレーム、投票機能など、アイデア発想・整理・共有に役立つ機能が豊富です。これらの機能を事前に把握し、スムーズに使えるように準備しておきます。オフラインの場合は、広い壁と大量のポストイットを用意します。
- 休憩を挟む: 長時間集中を持続するのは難しいため、適宜休憩を挟み、リフレッシュする時間を設けます。
まとめ
定義された顧客課題から効果的なアイデアを生み出すワークショップは、デザイン思考のプロセスにおいて創造性と課題解決を結びつける重要なステップです。本記事で紹介した手順はあくまで一例であり、チームの状況や課題に応じて柔軟にアレンジすることが可能です。
このワークショップを通じて、チームは顧客視点に立ち返り、単なる思いつきではない、地に足の着いた創造的なアイデアを生み出す力を養うことができます。定期的にこのワークショップを実施することで、サービス開発におけるアイデアの枯渇を防ぎ、顧客価値の高いプロダクト・サービスを生み出すサイクルを構築することが期待できます。
ぜひ、定義済みの顧客課題を携え、チームでアイデア発想ワークショップを実践してみてください。