サービス開発チーム向け 多様なアイデアを生み出すワークショップ手順
はじめに
サービス開発において、新しい機能や改善策、あるいは全く新しい価値を生み出すためには、質の高いアイデアが不可欠です。しかし、チームでアイデアを出し合っても、発想が既存の枠に留まったり、特定の意見に偏ったりしてしまい、期待するような成果が得られないという課題に直面することもあるかと存じます。
本記事では、デザイン思考のアプローチを取り入れた、チームで多様なアイデアを効果的に生み出すためのワークショップ手順を詳細に解説します。顧客ニーズやインサイトに基づき、ブレインストーミングをさらに発展させた発想手法を取り入れることで、チームのアイデア力を高め、より効果的な課題解決に繋がる方法をお伝えします。
アイデア発想ワークショップの目的と位置づけ
このワークショップは、デザイン思考のプロセスにおける「Ideation(アイデア創造)」フェーズにあたります。先行するフェーズ(Empathize/Define)で明らかになった顧客の課題やニーズ、インサイトに基づき、それらを解決するための具体的なアイデアを可能な限り多く、多様な視点から生み出すことを目的とします。
単にアイデアを出すだけでなく、チームメンバー間の知見を融合させ、予期せぬ発想を促すことで、個人では到達し得ない創造的な解決策の種を見つけ出す機会となります。
ワークショップ実施のための事前準備
ワークショップを成功させるためには、周到な準備が不可欠です。
1. 目的と対象課題の明確化
- 何のためにアイデアを出すのか? 解決したい具体的な顧客課題や、追求したい特定のニーズを明確にします。
- ワークショップのゴール設定: 「〇〇に関するアイデアを最低△△個生み出す」「特定の課題に対する多様な視点からの解決策の方向性を見つける」など、具体的な成果目標を設定します。
- 事前に、なぜこの課題に取り組むのか、現状の共有などを参加者に伝えておくと、当日の集中度が高まります。
2. 参加者の選定
- 多様な視点を取り入れるため、開発、デザイン、マーケティング、カスタマーサポートなど、異なるバックグラウンドを持つメンバーでチームを構成することが望ましいです。
- 参加人数は、活発な議論と個々の発言機会を確保できる5〜8名程度が推奨されます。
3. 時間と場所の確保
- アイデア発想には十分な時間が必要です。発想、整理、共有を含めて、最低でも1.5〜2時間、できれば3時間程度のまとまった時間を確保します。
- オフラインの場合は、参加者が自由に動き回ったり、壁にアイデアを貼り付けたりできる広いスペースがあると良いでしょう。
- オンラインの場合は、参加者全員がアクセスできるオンラインホワイトボードツール(Miro, Muralなど)が必要です。
4. 必要なツールと資料の準備
- オフライン:
- ホワイトボードまたは模造紙
- 大量の付箋(複数の色があると整理に便利)
- 油性ペン(参加者人数分)
- ワークシート(アイデア記述用、グルーピング用など、必要に応じて)
- タイマー
- (参考資料)顧客課題、ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、インサイトをまとめた資料
- オンライン:
- オンラインホワイトボードツール(Miro, Mural, Figma FigJamなど)のボード設定
- ブレインストーミングエリア(付箋エリア)
- グルーピングエリア
- 評価/投票エリア
- 参考資料貼り付けエリア
- ビデオ会議ツール(Zoom, Google Meetなど)
- タイマー機能(ツール内または別途)
- (参考資料)顧客課題などをまとめたデジタル資料をボード内に配置
- オンラインホワイトボードツール(Miro, Mural, Figma FigJamなど)のボード設定
5. ファシリテーターの選任
- ワークショップを円滑に進め、議論を活性化させる役割です。事前の準備やタイムキーピング、参加者への適切な問いかけ、ルールの徹底などを行います。
多様なアイデアを生み出すワークショップ手順
ここでは、一般的なアイデア発想ワークショップの進め方をステップ形式で解説します。
ステップ1:導入とウォーミングアップ (15-20分)
- 目的とアジェンダの共有:
- 本日のワークショップの目的、解決したい課題、全体の流れを改めて参加者全員で共有します。
- なぜこの課題に取り組むのか、背景となる顧客情報やインサイトを簡潔に再確認します。オンラインの場合は、これらの資料をオンラインホワイトボード上の見やすい場所に配置しておきます。
- アイスブレイク/ウォーミングアップ:
- チームの心理的安全性を高め、発想を柔らかくするための簡単なアクティビティを行います。
- 例:「〇〇に関する面白いアイデアを3つ出してみましょう(課題とは関係ないお題)」「最近発見した便利な〇〇」など。
- グランドルールの設定/確認:
- 自由な発想を促すためのルールを共有・確認します。
- 批判をしない: どんなアイデアも最初は受け入れます。
- 量を重視する: 質より量を意識し、多くのアイデアを出し切ります。
- ユニークなアイデアを歓迎する: 常識に囚われない、一見突飛なアイデアも歓迎します。
- 他者のアイデアに乗っかる(ビルドする): 他の人のアイデアを聞いて、そこから自分のアイデアを発展させます。
- 全員参加: 全員が少なくとも一つはアイデアを出すことを意識します。
- 時間を守る: 設定された時間内で活動を終えます。
- オンラインツールの使い方(付箋の追加、移動方法など)も簡単に説明します。
- 自由な発想を促すためのルールを共有・確認します。
ステップ2:アイデア発想(発散) (40-60分)
指定された課題やニーズに対し、様々な手法を用いてアイデアを出し合います。量を重視し、質や実現可能性はこの段階では問いません。
- 個人での発想 (10-15分):
- まずは個人で、静かにアイデアを考え、付箋に書き出します。
- 問いかけ例: 「もし〇〇が全く自由だったら?」「〇〇の課題を解決するために、今までとは全く違うアプローチは何だろう?」「ターゲット顧客の△△さんは、この課題をどうすれば最も簡単に解決できるだろう?」
- 付箋には「アイデアは一つだけ」を明記します(1付箋=1アイデア)。簡潔に、後で見返した人が理解できるように記述します。
- オンラインの場合は、各自オンラインホワイトボードの個人スペースや指定エリアに付箋を追加していきます。
- 共有とビルド (20-30分):
- 各自が出したアイデアを簡単に共有します。全員が発表する時間を設けます。
- 共有されたアイデアを聞いて、そこから連想されるアイデア、組み合わせたアイデアなどをさらに出していきます。これが「他者のアイデアに乗っかる(ビルドする)」です。
- 問いかけ例: 「〇〇さんのアイデアを聞いて、他にどんなことが思いつきますか?」「このアイデアを逆転させたらどうなるだろう?」「〇〇の技術を△△のアイデアに適用したら?」
- オンラインの場合は、発表しながら付箋を共有エリアに移動させたり、他の付箋の近くに置いたりすることで、関連性を視覚的に示せます。
- 様々な発想手法の活用 (必要に応じて、上記時間内に組み合わせる):
- 単なるブレインストーミングだけでなく、以下のような手法を組み合わせると、より多様なアイデアが生まれる可能性があります。
- SCAMPER: 既存の製品やサービス、アイデアを「Substitute(代用する)」「Combine(組み合わせる)」「Adapt(応用する)」「Modify(修正する)/Magnify(拡大する)/Minify(縮小する)」「Put to another use(他の用途に使う)」「Eliminate(取り除く)」「Reverse(逆転する)/Rearrange(再構成する)」の観点から強制的に変化させてアイデアを生み出します。
- 強制連想法: 全く関連性のない単語や写真などから連想してアイデアを生み出します。
- もしもボックス: 「もし〇〇が△△だったら?」のように、極端な状況や非現実的な制約を設定してアイデアを生み出します。
- オンラインホワイトボードには、これらの発想法のテンプレートを事前に準備しておくとスムーズです。
- 単なるブレインストーミングだけでなく、以下のような手法を組み合わせると、より多様なアイデアが生まれる可能性があります。
ステップ3:アイデアの整理と分類 (20-30分)
出し尽くされたアイデアを整理し、全体の傾向を把握します。
- グルーピング:
- 類似するアイデア、関連性の高いアイデアをまとめてグループ化します。
- オンラインホワイトボード上では、付箋をドラッグ&ドロップして移動させ、クラスタリングします。
- カテゴリ化/テーマ設定:
- グループごとに代表的なテーマやカテゴリ名をつけます。これにより、どのような方向性のアイデアが多く出たのかが明確になります。
- 例:「コスト削減系」「ユーザー体験向上系」「新しいビジネスモデル系」など。
- 付箋の色分けや、オンラインツールでのフレーム機能などを活用すると視覚的に分かりやすくなります。
ステップ4:アイデアの評価と絞り込み (30-40分)
生み出されたアイデアの中から、目的や制約に照らして有望なものを選び出します。
- 評価軸の共有:
- どのような基準でアイデアを評価するか(例:顧客へのインパクト、実現可能性、独自性、コスト、技術的な制約など)を参加者全員で共有し、必要であれば定義します。
- アイデアの共有と説明:
- 各グループやカテゴリの代表的なアイデア、あるいはユニークなアイデアについて、簡単に内容を説明します。アイデアを出した本人や、ファシリテーターが説明します。
- オンラインの場合は、画面共有やカーソルで示しながら説明します。
- 投票/評価:
- 設定した評価軸に基づき、各参加者が最も有望だと考えるアイデアに投票します。
- 投票方法例:
- 持ち点制(例:一人5票、同じアイデアへの複数投票は不可または〇票まで)
- 評価マトリクス(例:インパクトと実現可能性の2軸でアイデアをプロットする)
- オンラインツールには投票機能が備わっていることが多いです。オフラインの場合は、評価軸を記載したシートに記入したり、付箋に印をつけたりします。
- 議論と絞り込み:
- 投票結果や評価マトリクスを参考に、上位のアイデアやユニークなアイデアについて議論します。
- なぜそのアイデアが良いのか、課題は何か、実現に向けて何が必要かなどを話し合います。
- 最終的に、次のステップに進むべきアイデアをいくつか絞り込みます(通常は3〜5個程度)。
ステップ5:まとめと次のアクション (10-15分)
- ワークショップの振り返り:
- 本日生み出されたアイデア全体を俯瞰し、どのような成果が得られたかを確認します。
- 選ばれたアイデアの確認:
- 絞り込まれたアイデアを改めて確認し、その内容をチームで共有します。
- 次のステップの決定:
- 選ばれたアイデアを具体化するために、次は何をするのか(例:詳細なコンセプト検討、プロトタイピング、ユーザーテストの計画など)を決定し、担当者や期限を設定します。
- オンラインホワイトボード上の議事録エリアなどに記録しておくと、後から参照しやすくなります。
- 感謝と終了:
- 参加者の貢献に感謝を伝え、ワークショップを終了します。
ツール活用のヒント
- オンラインホワイトボード(Miro, Muralなど):
- 事前にワークショップのフレーム(各ステップのエリア分け)を作成しておくと、当日の進行がスムーズです。
- テンプレート機能を活用すると、SCAMPERなどの発想法のフレームも簡単に用意できます。
- タイマー機能、投票機能はワークショップの進行管理や意思決定に非常に便利です。
- 付箋の色やサイズ、文字色などを使い分けることで、情報の整理や分類を視覚的に分かりやすく行えます。
- フレームやロック機能を活用し、誤操作によるボードの崩れを防ぐことができます。
- ドキュメント共有ツール(Google Docs, Confluenceなど):
- ワークショップの目的、背景資料、アジェンダ、使用するワークシートなどを事前に共有するために活用できます。
- ワークショップ後の議事録や、選ばれたアイデアの詳細をまとめる際にも役立ちます。
ワークショップ成功のためのポイント
- ファシリテーターの役割: 中立的な立場で、参加者全員が発言しやすい雰囲気を作り、議論が脱線しないように適切に方向を修正します。
- 心理的安全性の確保: どんなアイデアも否定されない、安心して発言できる環境を作ることが最も重要です。
- 事前の情報共有: 参加者が課題や顧客ニーズを理解した上でワークショップに臨めるよう、関連情報は事前に共有しておきます。
- 時間管理: 各ステップに厳密な時間を設定し、タイマーを使って進行します。時間が押している場合は、ファシリテーターが適切な判断で調整します。
- 全員の参加を促す: 特定の参加者だけが話すのではなく、静かな参加者にも発言を促したり、少人数でのペアワークを取り入れたりする工夫も有効です。
- 楽しむこと: アイデア発想は創造的な活動です。堅苦しくなりすぎず、リラックスして楽しむ雰囲気を作ることで、自由な発想が生まれやすくなります。
まとめ
サービス開発チームにおいて、多様で質の高いアイデアを生み出すことは、プロダクトの成功に直結します。本記事で解説したワークショップ手順は、デザイン思考に基づき、個人とチームの発想力を最大限に引き出すための具体的な方法を提供します。
重要なのは、単にアイデアをたくさん出すだけでなく、それが顧客の課題やニーズに根ざしているか、そしてチームとして次のアクションに繋げられるかという視点を持つことです。今回紹介した手順やツール活用のヒントを参考に、ぜひ貴社チームで多様なアイデア発想ワークショップを実践し、新たな価値創造に繋げてください。
ワークシートのテンプレートや、具体的な発想手法の詳細ガイドなど、さらに役立つ資料は今後「デザイン思考ワークショップガイド」サイト内で提供を予定しております。本記事を最初のステップとして、チームでの創造的な活動を推進していただければ幸いです。