サービス開発チーム向け 定義した課題に対し最適な解決策を選定するワークショップ手順
定義した課題に対し最適な解決策を選定するワークショップ手順
サービス開発において、顧客課題を明確に定義し、多様な解決策アイデアを生み出すことは重要なステップです。しかし、次に「どの解決策アイデアを具体化し、開発に進めるべきか」という判断に迷うことは少なくありません。複数のアイデアの中から、本当に顧客の課題を解決し、かつ実現可能な「最適な解決策」を見つけ出すプロセスは、開発の手戻りを減らし、リソースを有効活用するために不可欠です。
この課題解決策の評価・選定ワークショップは、チームが共通の評価基準に基づき、客観的にアイデアを検討し、合意形成を図ることを目的としています。本記事では、サービス開発チームのリーダーがチームで実践できる、具体的なワークショップの手順と進行のポイントを解説します。
ワークショップの目的と効果
このワークショップの主な目的は以下の通りです。
- 定義された顧客課題に対して、最も効果的かつ実現可能性の高い解決策をチームで合意形成して選定する。
- 解決策アイデアの長所・短所を多角的な視点から評価する。
- チーム全体で解決策に対する理解と納得感を深める。
本ワークショップを実施することで、以下のような効果が期待できます。
- 感覚や一部の意見に偏らず、客観的な基準に基づいた意思決定が可能になる。
- チームメンバー間の認識のずれを減らし、スムーズに次の開発ステップに進める。
- 開発途中の大幅な方針転換や手戻りのリスクを低減する。
- 限られたリソースを、可能性の高い解決策に集中できる。
ワークショップの準備
ワークショップを円滑に進めるためには、事前の準備が非常に重要です。
1. 対象となる課題とアイデアリストの共有
- ワークショップで評価対象とする「定義された顧客課題」を明確にし、参加者全員に事前に共有します。課題の背景、重要性なども含めて理解を深めておきます。
- アイデア発想フェーズで生まれた「解決策アイデアリスト」を整理し、参加者が確認できるようにしておきます。アイデアの内容が簡潔にまとめられていると望ましいです。アイデアの数が多い場合は、事前にいくつかのグループに分類するなど、検討しやすい形に整理しておくと良いでしょう。
2. 解決策の評価基準の設定
- 解決策を評価するための基準を事前にチームで検討し、設定します。以下は基準の例です。
- 顧客への提供価値: 定義された顧客課題をどれだけ効果的に解決できるか?顧客はどれだけ喜ぶか?
- 実現可能性: 技術的に実現可能か?必要なリソース(人材、時間、コスト)は現実的か?既存システムとの整合性はどうか?
- ビジネスインパクト: 事業目標への貢献度(売上増加、コスト削減、顧客満足度向上など)。市場規模や競合優位性は?
- 開発コスト・期間: 開発に必要なコストと期間はどれくらいか?
- リスク: 開発上、運用上、ビジネス上のリスクはどれくらいか?
- 基準は3〜5個程度に絞り、明確な言葉で定義します。基準が多すぎると評価が複雑になります。
- 評価方法(例: 5段階評価、〇△×評価など)も決めておきます。
3. 評価用フォーマット/ワークシートの準備
- 設定した評価基準に基づき、各アイデアを評価するためのワークシートやフォーマットを作成します。
- オンラインで実施する場合は、MiroやMuralといったオンラインホワイトボードツールに評価用のフレームワーク(例: 評価基準を行、アイデアを列にした表など)を準備しておくと便利です。各参加者が自分の評価と理由を書き込めるように設定します。
- Miroの場合、テーブル機能やフリーフォームで表を作成し、付箋やテキストツールで評価やコメントを記入できます。
4. 参加者への事前連絡
- ワークショップの目的、日時、場所(オンライン会議URL)、所要時間、評価対象となる課題とアイデアリスト、設定した評価基準、事前の準備事項などを明確に伝えます。
- 参加者には、事前にアイデアリストと評価基準を確認しておくよう依頼します。
ワークショップの手順(所要時間目安: 2〜3時間)
ステップ1: チェックイン&目的共有(15分)
- 参加者がリラックスできるように、簡単なチェックインを行います。
- ワークショップの目的(最適な解決策の選定)と、それがチームの課題解決や開発効率向上にどう繋がるかを改めて共有します。
- 本日の進め方、時間配分、評価基準の確認方法などを説明します。
ステップ2: 評価基準の確認・合意(30分)
- 事前に設定した評価基準を参加者全員で確認します。
- 各基準が何を意味するのか、解釈にずれがないかを確認し、必要であれば補足説明や質疑応答を行います。
- 基準そのものに違和感がある場合は、簡単な議論を経て、チームとして納得できる基準に修正・合意形成を行います。この段階で全員が基準を理解し、納得することが重要です。
ステップ3: 各解決策アイデアの発表・理解促進(30分〜1時間)
- 評価対象となる各解決策アイデアについて、提案者や担当者が内容を簡潔に説明します。
- 説明時間はアイデアごとに固定し(例: 3〜5分)、端的にメリットや特徴、定義した課題をどう解決するかに焦点を当てます。
- 説明後、簡単な質疑応答を行い、参加者全員が各アイデアの内容を正確に理解できるようにします。不明点や疑問点はここで解消しておきます。
ステップ4: 評価の実施(30分〜1時間)
- 参加者それぞれが、ステップ2で合意した評価基準に基づき、各解決策アイデアを評価します。
- 準備したワークシートやオンラインツールの評価用フォーマットを使用します。
- 例えば、Miroのボード上にアイデアごとのエリアを作成し、各評価基準に対して付箋で点数やコメントを書き込む形式などが考えられます。
- 単に点数をつけるだけでなく、「なぜそのように評価したのか」という理由や根拠も書き添えるように促します。これにより、後の議論が深まります。
- この時間は個人ワークとし、他の参加者の評価に左右されないように静かに集中して行います。
ステップ5: 評価結果の共有と議論(30分〜1時間)
- 参加者全員の評価結果を集計・可視化します。オンラインツールの場合はリアルタイムで集計が進む場合もあります。
- 評価結果をボードや画面に表示し、全体傾向を把握します。
- 特に評価が高いアイデア、低いアイデア、そして評価が大きく分かれたアイデアに焦点を当てて議論を行います。
- 「このアイデアを高く評価したのはなぜですか?」「低く評価した理由は?」など、具体的な評価理由を尋ね、それぞれの視点や懸念を共有します。
- 感情論ではなく、設定した評価基準に立ち返り、客観的な事実や根拠に基づいて議論を進めるようファシリテーターが促します。
ステップ6: 総合的な検討と選定(30分)
- 評価結果とステップ5での議論を踏まえ、どの解決策が最も有望かを総合的に検討します。
- 複数の基準を横断的に比較し、チームとして優先的に取り組むべき解決策を1つまたは複数(例: 2〜3個)に絞り込みます。
- 選定した解決策について、チームとしての合意形成を図ります。「この解決策を選んだ理由」を明確に言語化し、全員が納得できるようにします。
ステップ7: ネクストアクションの確認(15分)
- 選定した解決策について、次の具体的なステップを確認します。
- 例: より詳細な要件定義、プロトタイプの作成、ユーザーテストの計画、必要なリソースの確保など。
- 各アクションの担当者と期限を設定します。
ステップ8: チェックアウト(5分)
- ワークショップ全体の簡単な振り返りを行います。「今日のワークショップで得られた気づき」「次回に活かしたいこと」などを簡単に共有し、ワークショップを締めくくります。
ツール活用のヒント
- オンラインホワイトボード (Miro, Muralなど): 評価基準の共有、アイデアリストの提示、評価用フォーマットの作成、参加者全員による同時評価、評価結果の可視化・集計、議論の場として非常に有効です。
- スプレッドシート (Google Sheets, Excelなど): 複雑な評価基準や定量的な評価の集計・分析に使用できます。オンラインホワイトボードと連携して使うことも可能です。
- ドキュメント共有ツール (Google Docs, Confluenceなど): 事前の課題、アイデアリスト、評価基準、ワークショップ議事録、ネクストアクションなどを共有するために使用します。
成功のためのポイント
- 評価基準の明確化と合意: ワークショップ開始前に基準を明確にし、参加者全員がその意味を理解し、納得していることが最も重要です。
- ファシリテーターの役割: 中立的な立場で時間を管理し、議論が脱線しないように促し、全員が発言できる雰囲気を作ります。特定のアイデアに偏った評価や発言が出ないように注意します。
- 「なぜ」を問う議論: 評価結果の議論では、点数そのものよりも「なぜその評価に至ったのか」という理由や背景にある考えを引き出すことに注力します。
- 合意形成の重視: 多数決ではなく、全員が納得できる形での合意形成を目指します。すべてのアイデアが完璧ではないことを理解し、最も「ベター」な選択肢を見つけるという意識を共有します。
まとめ
定義した顧客課題に対する最適な解決策を選定するワークショップは、サービス開発チームが手戻りを減らし、限られたリソースを最も効果的な方向に集中させるための重要なプロセスです。本記事で紹介した手順を参考に、評価基準の明確化、具体的な評価実施、そして理由に基づいた議論を通じて、チームで納得感のある解決策選定を実現してください。
選定された解決策は、次のプロトタイピングや検証といったステップへと繋がります。このワークショップを通じてチーム全体の課題解決能力を高め、より顧客に価値を届けられるサービス開発を目指しましょう。