サービス開発チーム向け ステークホルダーを効果的に巻き込むデザイン思考ワークショップ手順
サービス開発におけるステークホルダー巻き込みの重要性
サービス開発プロジェクトを進めるにあたり、チーム内部だけでなく、経営層、他部門、顧客代表者、パートナー企業など、様々なステークホルダーとの連携が不可欠です。これらのステークホルダーの理解と協力を初期段階で得られるかどうかは、プロジェクトの成否やその後の開発手戻りに大きく影響します。
デザイン思考ワークショップは、チームの共通認識形成やアイデア創出に有効な手法ですが、ステークホルダーを効果的に巻き込むことで、その成果を最大化し、より多角的な視点を取り入れることが可能になります。ステークホルダーの視点が早期に共有されることで、潜在的なリスクの発見、手戻りの防止、プロジェクト推進力の向上、そして社内における合意形成の円滑化が期待できます。
この記事では、サービス開発チームのリーダーが、ステークホルダーをデザイン思考ワークショップに効果的に巻き込み、プロジェクトの質を高めるための具体的な設計、準備、そして進行手順について解説します。高度な理論ではなく、現場で役立つ実践的なポイントに焦点を当てます。
なぜステークホルダーをワークショップに巻き込むのか
サービス開発におけるステークホルダーは、それぞれ異なる関心事や専門知識を持っています。
- 経営層: 事業戦略、収益性、投資対効果
- 営業・マーケティング部門: 顧客ニーズ、市場トレンド、競合状況
- カスタマーサポート部門: 既存顧客の課題、要望、問い合わせ内容
- 法務・コンプライアンス部門: 法規制、リスク
- 他製品・サービス部門: 連携、影響範囲
- 顧客代表者: 実際の利用状況、課題、ニーズ
これらのステークホルダーをデザイン思考ワークショップに招き、彼らの視点から現状の課題やアイデア候補に対するフィードバックを得ることは、以下のようなメリットをもたらします。
- 多角的な視点の取り込み: チームだけでは気づけなかった課題や機会を発見できます。
- 早期の合意形成: 重要な意思決定に関わるステークホルダーの理解と賛同を得ることで、後工程での方針変更や手戻りのリスクを低減します。
- 推進力の向上: ステークホルダー自身がワークショップに参加することで、プロジェクトへの当事者意識が高まり、その後の協力や支援を得やすくなります。
- 手戻りの削減: 開発初期段階で様々な懸念や要求を把握し、設計に反映することで、開発途中の大きな変更を防ぎます。
逆に、ステークホルダーを十分に巻き込まない場合、開発が進んだ段階で重大な課題が発覚したり、リリース後に想定外の反発を受けたりといったリスクが高まります。
ステークホルダー向けワークショップの設計プロセス
ステークホルダーを巻き込むワークショップは、通常のチーム内ワークショップとは異なる配慮が必要です。彼らの参加時間は限られていることが多く、専門用語への馴染みがない場合もあります。以下のプロセスを参考に設計を進めます。
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ワークショップの目的設定:
- このワークショップを通じて、ステークホルダーから何を得たいのか、何を共有したいのかを明確にします。
- 例:
- 新規サービスコンセプトに対する初期フィードバック収集
- 特定の顧客課題に対する部門横断での共通認識形成
- アイデア候補に対するビジネス的・技術的な実現可能性評価
- サービスの優先機能に関する意見交換
- 目的によって、招待すべきステークホルダーの種類やワークショップの内容が変わります。
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参加者の選定:
- 設定した目的に照らし合わせ、参加が必要なステークホルダーをリストアップします。
- 意思決定に影響力のある人、多様な視点を提供できる人、プロジェクトへの関心が高い人を選定します。
- 参加人数は多すぎると議論が拡散しやすいため、最大でも10名程度に絞り込むのが望ましいでしょう。
- サービス開発チームからは、プロジェクトリーダー、プロダクトオーナー、主要メンバーなどが参加します。
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アジェンダの設計:
- ステークホルダーの参加時間を最大限に活用できるよう、短時間で핵심(ヘクシム:核心)に迫るアジェンダを設計します。1〜2時間程度で完結できると理想的です。
- 彼らがデザイン思考に詳しいとは限らないため、手法の説明は簡潔に留めるか、事前に資料を共有します。
- 具体的なワークショップの流れ:
- 導入 (5-10分): 歓迎、ワークショップの目的と期待するアウトプットの説明、簡単なアイスブレイク。なぜ彼らを招いたのかを丁寧に伝えます。
- 背景共有 (10-15分): サービス開発の現状、今回議論したいテーマに関する背景情報、解決したい課題などを簡潔に共有します。データや顧客の声など、客観的な情報を含めると説得力が増します。
- 具体的なワーク (40-60分):
- 設定した目的に沿ったワークを実施します。
- 例:「私たちが考えているアイデア〇〇について、皆さんの視点から見た『良い点』『懸念点』『改善点』を付箋に書き出してください。」
- 例:「この顧客課題について、皆さんの部署や役割から見て、最も重要だと感じるポイントは何ですか?」
- 例:「提案された解決策△△を実現する上で、考えられる技術的・ビジネス的なリスクは何でしょうか?」
- 短いグループワークやペアワークを取り入れ、全員が発言する機会を作ります。
- アウトプットの共有とまとめ (10-15分): ワークで出た意見やアイデアを全体で共有し、主要なポイントを整理します。想定外の貴重な意見に焦点を当て、感謝を伝えます。
- ネクストステップの共有 (5分): ワークショップで得られた成果を今後どのように活用するのか、次のアクションを明確に伝えます。今後の協力依頼なども含めます。
- 事前にアジェンダと共有資料(背景情報など)を参加者に送付します。
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ワークショップ形式とツール選定:
- 対面、オンライン、ハイブリッドなど、参加者の状況に合わせて形式を選択します。
- オンラインの場合は、MiroやMuralのようなオンラインホワイトボードツールの活用が効果的です。
- リアルタイムでの意見共有、可視化、整理が容易です。
- テンプレートを活用すれば、ワークショップ形式に沿った進行がスムーズになります。
- 参加者が自宅からでもアクセスできるため、場所の制約が少なくなります。
- 共有資料や議事録は、Google DocsやConfluenceなどのドキュメント共有ツールを活用します。
ワークショップの具体的な進め方におけるポイント
ステークホルダーを招いたワークショップを円滑に進めるための具体的なポイントです。
- 導入:
- 参加者全員に感謝を伝え、ワークショップの重要性を改めて説明します。
- 簡単な自己紹介やアイスブレイクで場の緊張を和らげます。
- 「ここでは自由な意見交換を歓迎します」「批判よりも、まず多様な視点を受け入れましょう」といったグランドルールを共有します。特に、ステークホルダーは役職を気にする場合があるため、心理的安全性の確保が重要です。
- ファシリテーション:
- 特定の参加者の発言に偏らず、可能な限り全員から意見を引き出すように促します。
- ステークホルダーの関心事(ビジネス、技術、顧客など)に合わせて、問いかけ方や説明を調整します。
- 対立する意見が出た場合は、否定せず、それぞれの立場や背景にある考えを掘り下げて整理します。「〇〇さんの視点からは△△という懸念があるのですね」と、意見を一旦受け止め、全員で共有します。
- 議論が脱線しそうな場合は、ワークショップの目的に立ち返り、優しく軌道を修正します。
- 専門用語は避け、平易な言葉で説明します。デザイン思考のフレームワークの説明も簡潔に留めます。
- ワーク実施:
- 各ワークの制限時間を明確に伝え、時間内で収まるように進行します。
- 付箋やオンラインホワイトボードを使用する場合は、書き方のルール(例:1枚の付箋に1つのアイデア)を明確に伝えます。
- グループワークを行う場合は、事前にグループ分けをしておくとスムーズです。
- オンラインツールの操作に不慣れな参加者がいる可能性を考慮し、簡単な操作説明やサポート体制を用意しておきます。
- アウトプットのまとめ:
- ワークで出た意見やアイデアを、その場でカテゴリーごとに整理したり、投票機能で優先順位を可視化したりします。
- 特に、ステークホルダーから出た重要な意見や懸念点を明確にハイライトします。
- 「本日のワークショップでは、〇〇という課題に対する△△という視点が得られました。これは今後の開発において重要なインサイトになります。」のように、得られた成果がプロジェクトにとって価値があることを伝えます。
- ネクストステップ:
- ワークショップの成果をどのように分析し、その後の開発や意思決定に活かしていくのか、具体的な計画を共有します。
- 参加者への感謝を再度伝え、今後の協力をお願いします。
- 議事録やワークショップのアウトプットを参加者に共有することを伝えます。
成功のためのポイントと注意点
- 事前の丁寧なコミュニケーション: ワークショップの目的、参加メリット、日時、形式、必要な準備などを、招待の段階から丁寧に伝えます。ステークホルダーのスケジュールを早期に確保することも重要です。
- 時間厳守: ステークホルダーは多忙です。開始時間、終了時間、各ワークの時間を厳守します。もし延長が必要な場合は、事前に参加者に確認します。
- 資料の事前共有: ワークショップの背景情報や説明資料は、事前に共有しておくと当日の理解がスムーズになります。
- 分かりやすい言葉遣い: 専門用語は避け、誰にでも理解できる平易な言葉で説明します。
- 積極的な傾聴と受容: ステークホルダーからの意見は、たとえチームの考えと異なっていても、まずは傾聴し、その背景にある考えを理解しようと努めます。否定的な意見も、重要なリスク情報として受け止めます。
- 感謝の表明: 参加して時間を割いてくれたステークホルダーに対し、丁寧に感謝を伝えます。
まとめ
ステークホルダーをデザイン思考ワークショップに効果的に巻き込むことは、サービス開発チームが直面するアイデアの偏り、顧客ニーズ把握不足、そして開発手戻りといった課題を解決する強力な手段となります。
この記事で解説した設計プロセスや具体的な進め方、そして成功のためのポイントを参考に、ぜひステークホルダーを巻き込んだワークショップを企画・実行してみてください。ステークホルダーの多様な視点を取り入れることで、より価値のあるサービス開発に繋がるはずです。ワークショップで得られたインサイトや合意事項は、その後の開発プロセスにおいて貴重な羅針盤となるでしょう。