サービス開発チーム向け チームでアイデアや情報を分類・構造化する親和図ワークショップ手順
ワークショップで得たアイデアや情報をどう活かすか?整理・構造化の重要性
サービス開発の現場では、ユーザーインタビュー、ブレインストーミング、市場調査など、様々な活動を通じて大量のアイデアや情報が得られます。しかし、これらの生の情報が散漫なままでは、チーム内で共通の理解を得たり、隠れた課題や新たな機会を発見したりすることは困難です。結果として、次のアクションが不明確になったり、重要な視点が見落とされたりするリスクが生じます。
このような状況を解決し、得られた情報資産を最大限に活用するためには、チームで協力してそれらを体系的に整理し、構造化するプロセスが不可欠です。本記事では、アイデアや情報を効果的に分類・構造化するための具体的な手法として、親和図(KJ法)を用いたワークショップの進め方を解説します。このワークショップを通じて、チームは情報の全体像を把握し、共通認識を深め、より的確な意思決定や次の具体的なアクションへと繋げることができます。
親和図(KJ法)とは
親和図法(KJ法)は、文化人類学者の川喜田二郎氏によって考案された、複雑な問題を解決するための手法です。収集した断片的な事実やアイデアを付箋に書き出し、それらを関連性の高いもの同士でグループ化し、図解化することで、問題の構造や本質を明らかにする目的で使用されます。
デザイン思考のプロセスにおいては、共感フェーズで得られたユーザーのインサイトや観察結果、定義フェーズで明確になった課題の要素、アイデア発想フェーズで生まれた多数のアイデアなどを整理・分析するために非常に有効です。
親和図ワークショップの具体的な進め方
親和図ワークショップは、対面でもオンラインでも実施可能です。ここでは、基本的な手順とオンラインツールを活用する際のヒントを交えて解説します。
事前準備
- 目的の明確化: 何のためにこのワークショップを行うのか(例:ユーザーインタビューから得たニーズを整理し、課題を定義する要素を見つける / アイデア発想で出た大量のアイデアを分類し、次のステップに進むための共通理解を得る)。この目的を参加者と共有します。
- 対象となる情報源の準備: ワークショップで整理・構造化したい元となる情報(ユーザーインタビューの議事録、アンケート結果、ブレインストーミングで書かれた付箋など)を集約しておきます。
- ツールの準備:
- 対面の場合: 大判の模造紙やホワイトボード、大量の付箋(情報ごとに色分けしても良い)、油性ペン。
- オンラインの場合: Miro, FigJam (Figma), Muralなどのオンラインホワイトボードツール。事前にフレームを用意しておくとスムーズです。ツールによっては、付箋の入力や移動、グループ化、線の描画などの機能が親和図作成に適しています。
- 参加者への共有: ワークショップの目的、簡単な流れ、事前に準備しておくべきこと(例えば、整理したい情報を各自付箋に書き出しておくなど)を伝達します。
ワークショップ手順
ワークショップは、以下のステップで進行します。各ステップには推奨される時間配分がありますが、扱う情報の量やチームの慣れによって調整してください。
ステップ1:データの持ち寄り/共有(15分~30分)
- 対面: 事前に各自が付箋に書き出した情報やアイデアを持ち寄り、壁や模造紙にランダムに貼り付けます。書き出せていない情報は、ここで改めて付箋に書き出します。一つの付箋には一つの情報(事実、意見、アイデアなど)を具体的に記述します。
- オンライン: 事前に共有されたオンラインボード上に、各自が付箋として情報を入力します。あるいは、ワークショップ開始と同時に、指定されたフレーム内に各自が付箋を入力していきます。入力済みの付箋がボード上にランダムに並んでいる状態から開始します。
ステップ2:個別読み込みと並べ替え(20分~40分)
- 参加者全員で、ボード上の全ての付箋を黙読します。
- 読みながら、似ている内容や関連性の高い内容の付箋を、近くに移動させて集めていきます。まだ厳密なグループを作るのではなく、直感的な関連性で近くに置く作業です。この段階では発言は控え、各自が全体を把握することに集中します。
ステップ3:グルーピング(20分~40分)
- ステップ2で近くに集めた付箋のまとまりを、チームで議論しながら正式なグループとして確定していきます。
- ファシリテーターは、参加者に「この付箋とこの付箋はなぜ一緒にしたのですか?」などと問いかけ、参加者間の認識のずれを調整し、グループ化の意図を共有することを促します。
- 明確に関連性のない付箋は、一旦保留エリアに置くなどの対応をします。
- ツール活用ヒント: MiroやFigJamでは、複数の付箋を選択してグループ化する機能があります。グループに色をつけたり、フレームで囲んだりすると視覚的に分かりやすくなります。
ステップ4:表札付け(15分~30分)
- 作成した各グループの内容を最も適切に表す短い言葉やフレーズを考え、そのグループの「表札」として付箋に書き、グループの先頭に貼ります。
- この表札は、そのグループが何について語っているのかを端的に示唆するものです。チームで議論し、全員が納得できる表現を見つけます。
ステップ5:図解化(構造化)(20分~40分)
- 作成したグループ間の関連性を検討します。「このグループはあのグループの原因になっているのではないか?」「このグループは別の複数のグループを包括しているのではないか?」など、関係性を議論します。
- グループ間の関連性を線で結んだり、階層構造として配置し直したりして、全体像を図として表現します。原因と結果、対立、包含関係など、様々な関係性が考えられます。
- ツール活用ヒント: オンラインホワイトボードツールには、コネクター機能があり、グループ間を線で結んで関係性を示すのに便利です。矢印の方向で因果関係を示すこともできます。
ステップ6:物語化(文章化)(20分~40分)
- 完成した親和図全体を俯瞰し、そこから読み取れること、発見したこと、全体を通して言えることなどを文章として記述します。
- 図だけでは表現しきれない、隠れた洞察や示唆を言語化する重要なプロセスです。親和図を見て「なるほど、こういうことだったのか!」と感じたことを率直に表現します。
- この文章は、ワークショップの結論や次のアクションの方向性を示すものとなります。
ファシリテーションのポイント
- 沈黙を恐れない: ステップ2のような個別作業や、グループ化・構造化の際の思考時間には、ある程度の沈黙が必要です。無理に会話を促さず、集中できる環境を提供します。
- フラットな場作り: 参加者全員が自由に意見や疑問を出しやすい雰囲気を作ります。役職に関係なく、情報そのものに向き合えるように促します。
- 結論を急がない: 特にグルーピングや構造化の段階では、すぐに結論を出そうとせず、様々な可能性を検討する時間を十分に取ります。
- 目的への立ち返り: 議論が脱線しそうになったら、ワークショップの最初に設定した目的を再確認させ、焦点を戻します。
- ツール習熟度の確認: オンラインツールの使用に不慣れな参加者がいないか事前に確認し、必要に応じて簡単な説明を行います。
親和図ワークショップの実践例と効果
例えば、ユーザーインタビューから得られた大量の定性データを親和図で整理したとします。バラバラだったユーザーの発言や行動の観察結果が付箋となり、それらを「●●に関する不満」「〇〇を達成するための工夫」「サービスへの期待」といったグループにまとめることで、ユーザーの抱える多様な課題や潜在的なニーズが浮き彫りになります。さらに、これらのグループ間の関連性を図解化することで、「なぜユーザーはこのような不満を抱えるのか」といった構造的な理解が深まり、単なる表面的なニーズではなく、より本質的な課題定義へと繋げることが可能になります。
このワークショップを通じて、チームメンバーは個々が持っていた断片的な情報や解釈を統合し、ユーザー像や課題に対する共通の認識を醸成することができます。これにより、次のアイデア発想やソリューション検討の段階で、チーム全体が同じ方向を向き、手戻りを減らし、より効果的な解決策を生み出す土台を築くことができます。
まとめ
親和図ワークショップは、サービス開発チームが情報過多の状況を乗り越え、データの背後にある意味や構造を理解するための強力な手法です。本記事で解説した手順に沿ってワークショップを実施することで、チームは得られたアイデアや情報を効果的に整理・構造化し、共通理解を深め、より的確な課題設定や意思決定を行うことが可能になります。
ぜひチームで親和図ワークショップを実践し、散漫な情報の中から価値ある洞察を引き出し、チームの課題解決能力を高めてください。オンラインツールを上手に活用することで、リモート環境でも効果的に実施することができます。