サービス開発チーム向け 多様なアイデアをチームで合意形成しながら評価・選定するワークショップ手順
アイデア発想の次ステップ:チームで納得感を持ってアイデアを選定する重要性
デザイン思考ワークショップにおけるアイデア発想段階では、多様で斬新なアイデアを数多く生み出すことに焦点を当てます。しかし、多くのアイデアが出揃った後、「どのアイデアを次のプロトタイピングに進めるべきか」「チーム内で意見が割れる」「結局、一部の人の意見で決まってしまい、後の開発で手戻りが発生する」といった課題に直面することは少なくありません。
チームでアイデアを選定するプロセスにおいて、単に多数決で決めたり、リーダーが独断で決定したりすることは、チームメンバーのコミットメントを低下させ、後の開発段階での認識齟齬や手戻りの原因となり得ます。真に効果的な課題解決策を見つけ、チーム全体で推進していくためには、多様なアイデアの中から、チーム全員が納得し、合意形成された上で次に進めるアイデアを特定することが不可欠です。
この記事では、アイデア発想ワークショップの次に実施すべき、多様なアイデアをチームで合意形成しながら評価・選定するための具体的なワークショップ手順を解説します。本手順を実践することで、チームは自信を持って次のステップに進むことができるようになります。
アイデア評価・選定ワークショップの目的と効果
このワークショップの主な目的は、アイデア発想段階で生まれた多様なアイデアの中から、最も可能性の高いものをチームの合意形成を得ながら絞り込み、次のステップ(プロトタイピングや検証)に進むアイデアを明確にすることです。
期待される効果は以下の通りです。
- チームの共通認識と納得感の醸成: アイデア選定の基準を共有し、議論を通じて互いの意見を理解することで、チーム全体の納得感が高まります。
- 意思決定の質向上: 複数の視点からアイデアを評価することで、より客観的で質の高い意思決定が可能になります。
- 後工程の手戻り削減: 選定されたアイデアに対するチームのコミットメントが高まり、開発段階での認識齟齬や仕様変更による手戻りのリスクを低減できます。
- 実行スピードの向上: 次に進むべきアイデアが明確になるため、チームは迷いなく次のステップに迅速に進むことができます。
ワークショップの準備
ワークショップを円滑に進めるために、以下の準備を行います。
- 時間: 1.5時間〜3時間程度(アイデアの数とチームの人数による)
- 参加者: アイデア発想ワークショップに参加したチームメンバーを中心に、意思決定に関わる関係者を含める。
- 場所/ツール:
- 対面の場合: 会議室、ホワイトボードまたは模造紙、付箋、ペン、マーカー
- オンラインの場合: オンラインホワイトボードツール(Miro, Figma Jam, Muralなど)、ビデオ会議システム
- 必要な情報: アイデア発想ワークショップで生まれた全てのアイデア(付箋、デジタルホワイトボードのデータなど)
具体的なワークショップ手順
Step 1: アイデアの整理と共有(15分〜30分)
アイデア発想ワークショップで出されたアイデアを一覧できるようにします。物理的な付箋の場合は壁やホワイトボードに貼り出し、オンラインツールの場合はツール上に全て表示します。
類似するアイデアがあれば、チームで話し合いながらグルーピングを行います。これにより、議論すべきアイデアの数を整理し、効率的に進めることができます。グループごとに代表者を決めて、そのアイデア群の概要を簡単に説明してもらいます。
- ファシリテーションのポイント: 各アイデアについて、発想者が意図や背景を簡潔に説明する時間を設けると、チームの理解が深まります。説明は1アイデアにつき1分以内など、時間を区切るとスムーズです。
Step 2: アイデア評価軸の設定(15分〜30分)
どのような基準でアイデアを評価するか、チームで合意形成を図ります。事前にいくつかの評価軸案を用意しておき、チームで議論して最終的な評価軸を決定するか、全くゼロからチームでブレインストーミングして決定する方法があります。
一般的な評価軸の例:
- 顧客価値: ユーザーの課題をどれだけ解決できるか? ユーザーにとって魅力的な体験を提供できるか?
- 実現可能性: 技術的に実現可能か? 必要なリソース(人材、予算、時間)はあるか?
- ビジネスインパクト: 事業目標への貢献度、収益性、市場への影響はどうか?
- チームの情熱/実行意欲: チームメンバーがそのアイデアに対してどれだけ情熱を持って取り組めるか?
- 独自性/革新性: 他にはない新しいアプローチか? 競合との差別化はできそうか?
これらの評価軸の中から、今回のプロジェクトで最も重要視すべき軸を3〜5つ程度選びます。各評価軸の定義について、チーム全員が共通の理解を持てるように具体的に話し合います。例えば、「実現可能性」が高いとは具体的にどういう状態か、などを明確にします。
- ツール活用: オンラインホワイトボード上に評価軸リストを作成し、各軸の定義を書き出しておくと、後工程で参照しやすくなります。
Step 3: 個別アイデアの評価(30分〜60分)
設定した評価軸に基づき、各アイデアを評価していきます。評価方法はいくつかありますが、代表的なものとして以下が挙げられます。
- 投票: 各評価軸について、参加者それぞれが最も良いと思うアイデアに複数票(例: 3票)を投じる。または、アイデア全体の中から「次に進めたいアイデア」に投票する。
- ツール活用: オンラインホワイトボードの投票機能が便利です。匿名投票に設定することも可能です。
- スコアリング: 各評価軸に対して、それぞれのアイデアを5段階などで評価し、合計スコアで比較する。
- ツール活用: オンラインホワイトボード上にマトリクス(アイデア × 評価軸)を作成し、評価を記入するスペースを用意します。スプレッドシートなどを併用するのも有効です。
- 議論と評価: 各アイデアについて、評価軸ごとにチームで議論し、定性的に評価を記録する。評価軸ごとのメリット・デメリットや懸念点を洗い出す。
これらの方法を組み合わせて使用することも可能です。例えば、まず投票で候補アイデアを絞り込み、その後、絞り込まれたアイデアについてスコアリングや議論で深く評価する、といった進め方です。
- ファシリテーションのポイント: 評価中は、特定の意見に引きずられないよう、参加者それぞれが独立して考える時間を設けることが重要です。疑問点があれば質問を促し、評価の根拠を明確にするよう促します。
Step 4: 優先順位付けと絞り込み(15分〜30分)
評価結果(投票数、スコア、議論内容)をチーム全体で共有します。評価の高かったアイデアや、議論を通じてチームの関心が高まったアイデアをリストアップします。
リストアップされたアイデアの中から、次のステップ(プロトタイピングなど)に進めるアイデアを数個(例: 1〜3個)に絞り込みます。この際、評価結果だけでなく、プロジェクトの現状やチームのリソース、リスクなども考慮に入れる必要があります。
評価結果を視覚化するために、2軸マトリクス(例: 顧客価値 vs 実現可能性)などを用いると、アイデアの位置づけが分かりやすくなります。
- ツール活用: オンラインホワイトボード上でマトリクスを作成し、アイデアを配置します。評価結果をスコアとして表示させると、議論の助けになります。
Step 5: 選定アイデアに関する合意形成(15分〜30分)
絞り込まれたアイデアについて、なぜそのアイデアを選んだのか、他のアイデアを選ばなかったのはなぜか、チーム全体で改めて議論し、納得感を醸成します。
選定されたアイデアについて、ポジティブな側面だけでなく、懸念される点やリスクについても正直に話し合います。これらの懸念点をどのようにクリアしていくか、簡単なアクションプランを議論することも有効です。
チームメンバー全員が、選定されたアイデアについて「これなら次に進めてみよう」と納得できる状態を目指します。もし、どうしても意見がまとまらない場合は、一旦持ち帰って追加の情報収集を行ったり、評価軸自体を見直したりすることも検討します。合意形成は、単なる多数決ではなく、チームとして「最善の選択をした」という納得感を共有することに重点を置きます。
- ファシリテーションのポイント: チームメンバー一人ひとりの意見を聞く時間を確保します。特に発言の少ないメンバーにも意見を求めるように促します。反対意見が出た場合は、その理由を丁寧に聞き、懸念点を理解しようと努めます。対立を避けず、建設的な議論になるように導きます。
ワークショップを成功させるためのヒント
- 目的の明確化: ワークショップ開始時に、何のためにこの選定を行うのか、目的を改めて共有します。
- 時間配分: 各ステップに時間制限を設け、時間内で収まるように意識します。延長が必要な場合は、チームに確認を取り、必要最低限に留めます。
- 公平性の確保: 全てのアイデアが公平に評価されるように配慮します。特定のアイデアに過剰に時間をかけたり、発想者の影響力が強くなりすぎたりしないように注意します。
- 記録: 評価のプロセスや議論の内容、最終的に選定されたアイデアとその理由をしっかりと記録します。オンラインツールの場合は、自動的に記録が残るため便利です。
- 次のステップとの接続: 選定されたアイデアが、次のプロトタイピングや開発プロセスにスムーズに繋がるよう、ワークショップの最後に次のアクションを確認します。
まとめ
多様なアイデアの中から、チーム全体が納得し、次に進めるアイデアを選定するプロセスは、サービス開発の成功にとって非常に重要です。今回ご紹介したワークショップ手順は、チームの共通認識を高め、合意形成を促し、後工程での手戻りを減らすことに繋がります。
アイデア発想ワークショップで生まれた貴重なアイデアを「宝の持ち腐れ」にしないためにも、ぜひチームでこの選定ワークショップを実践してみてください。明確な評価軸に基づき、チームで議論し、納得感を共有しながら次のステップに進む経験は、チームのエンゲージメントを高め、より良いサービス開発に繋がるはずです。
本記事で解説した手順を参考に、チームの状況に合わせてアレンジしながら実施してください。オンラインホワイトボードツールを活用することで、リモート環境でも円滑にワークショップを進めることが可能です。